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コラム

疑わしきは課税できず

2015年06月08日 カテゴリー:ニュースコラム

弁護士の宮崎裕子氏が、さらに連勝を記録したようです。

弁護士の宮崎裕子氏(63)は今日も法廷でほほ笑んだ。3月25日の東京高裁。傍聴席の最後列に座り、判決を静かに聞いた。

「控訴を棄却する」。東京国税局から約3995億円の申告漏れを指摘された日本IBMの持ち株会社が約1200億円の課税処分取り消しを求めて争った控訴審で国に勝った。

ホンダの代理人としても海外子会社の利益算定を巡り国税と争い地裁と高裁で連勝した。ハーバード・ロースクールや世界銀行で国際税務の知識を磨き実務は30年以上。国に勝ちを重ねる最強の女神を税務の世界で知らぬ者はいない。

■不敗神話が崩壊

日本IBMの持ち株会社の設立は2002年。持ち株会社は米IBMから日本IBM株を購入したうえで、購入額よりも安く日本IBM自身に転売し約4千億円の損失を出した。そのうえで08年に連結納税を採用。グループ全体の損失として日本IBMの黒字と相殺し、法人税額を圧縮した。

「赤字を積み上げたうえで連結納税で黒字と相殺する取引は税逃れ目的だ」。国税は追徴課税したがIBM側は「個々の取引は経営上必要と判断したためで税逃れを狙ったわけではない」と主張。国税庁は敗れた。IBM関係者は「国税の攻め方が甘かった。米本社に英語で直接問いただすチャンスもあったが彼らは消極的だった」と一蹴する。

元検事の弁護士、黒沢基弘氏(46)は「国税の不敗神話は崩壊した」と話す。税務訴訟の国側代理人を長く務めた黒沢氏は「グローバル化が深化した00年代半ばが転機だった」という。

その象徴は消費者金融の武富士(現在は更生会社TFK)創業者の長男を巡る訴訟だ。東京国税局は05年、個人では最高の約1330億円を追徴課税したが11年に最高裁判決で敗訴が確定。利子分も含め約2千億円の還付を迫られた。

裁判長の須藤正彦氏(72)が異色の補足意見を付けた。法の盲点をつく国際的な節税策を「著しい不公平感を免れない」と批判しつつ「厳格な法解釈が求められる以上、課税取り消しはやむを得ない」と結んだ。弁護士に戻った須藤氏は語る。「『けしからん』では課税できない。税逃れは法改正で防ぐしかない」

グローバル化に対応する国税当局の取り組みはまだ暗中模索の段階だ。

■回収実績ゼロ

税務行政執行共助条約。政府は11年にこんな国際条約に署名した。世界約40カ国に税金滞納者の資産徴収を依頼できるようになった。だが、回収実績はゼロだ。国税庁担当者は「2国間のルール整備が必要で時間がかかる」と語るがそもそも徴収共助に参加しないタックスヘイブン(租税回避地)の国・地域も目立つ。

長年の法廷での戦いを通じ宮崎氏が国税庁に抱いた懸念がある。「『悪い税逃れだ』とカネの流れを追うあまり、課税の法的根拠がどこかという厳密な検証が弱いケースがある」

疑わしきは課税できず。グローバル化の大波は税当局に原点への回帰を迫る。

(引用:日本経済新聞 平成27年6月5日)



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