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コラム

Monthly Archives: 9月 2013

C型肝炎訴訟 カルテのないC型肝炎患者の闘い(5)

2013年09月25日 カテゴリー:C型肝炎給付金請求訴訟

C型肝炎訴訟 「カルテがない」ことの難しさ

薬害C型肝炎特別措置法は、国家賠償法の特別法であり、原因行為や因果関係や損害額について、被害者の立証責任を軽減し、国の過ちを認め、すみやかに被害者を救済するために、制定された法律である。
C型肝炎特別措置法制定後のこれまでの薬害C型肝炎訴訟における原因行為(フィブリノゲン製剤などの投与)に関する審理の実態をみてみると、カルテのある原告については、カルテのみの書面審理を行なうことで十分で、簡略であり、カルテのある原告はすみやかに救済された。ところが、カルテのない原告の中で給付金がもらえたケースは極めて少ない。

新聞報道されているものは、

  • 出産に立ち合った担当医が生きていて、「この出血量なら当時の方針でフィブリノゲンを使っただろう」と証言したことと、母子手帳や当時の担当医が残したメモに出産時に大量出血があったと記されていたケース
  • 出産に立ち合った医師が死亡していたため、麻酔医を捜し出し、証人尋問を実施し、「その女性を担当した記憶はないが、もし担当だったら投与していただろう」との証言を得、さらに同じ病院に麻酔医として派遣された可能性がある医師10数名にアンケートを行ない、数人から上記と同様の回答を得たというほど苦労しているケース
  • 出産に立ち合った医師が死亡していたが、その子どもの医師が証言したケース

である。

誰が医者にフィブリノゲン製剤を使い始めさせたのか

裁判所や国は、カルテのない原告らに対し、医師の証人尋問を要求してくる。
担当医師が生存していても、カルテがないので医師自身がわからないとか記憶がないという書面を書いても、医師の証人尋問を要求してくる。
国は、その根拠として、カルテのある原告と同様の立証をしてもらわないと不公平になるとか、フィブリノゲン製剤などは、病院や医師によって投与した症例が異なると主張しているようだ。

しかし、薬害肝炎の検証及び再発防止に関する研究班の「中間報告書」に記載されているとおり、全国の医師たちが治療方針を決めるために、読んでいたのは、「今日の治療方針」という雑誌である。それには、まず産科領域では出産女性がDICに陥りやすく、出血多量で命を落とすことも多いため、フィブリノゲン製剤の使用が推奨され、薬害肝炎の検証及び再発防止に関する研究班の「中間報告書」には、それが婦人科の手術にも用いられるようになり、さらに、心臓外科や消化器外科、気胸、やけどなどに広く使用されるようになっていったことが記載してある。

弛緩性出血で産婦が死亡したケースで、東京地裁が「医師が迅速な止血措置(線溶阻止剤や線維素原の投与(フィブリノゲン製剤などの投与のこと))を行わなかったことを医師の過失」と認定したため、より一層、産婦人科では、フィブリノゲン製剤の使用につながったのである。(東京地裁昭和50年2月13日判決)

すなわち、裁判所が、薬害C型肝炎被害者を増加させる役割を担ってしまったのだ。

立証の壁

これまでのように、原告毎に医師などの証人尋問を要求することを裁判所が是とすれば、医師は原則として出張尋問であり、医師が多忙で診療時間は尋問に応じることができないため、10年かかってもこの訴訟を解決することはできない。
そして、解決が長引けば、原告は亡くなり(すでに亡くなった方がいる。)、生存している医師も亡くなってしまい、立証の壁は富士山より高くなっていく。そして、C型肝炎特別措置法のすみやかに被害者を救済するという精神を踏みにじった国と製薬会社が笑うということになってしまう。

カルテのない原告については、過去の解決事例を類型的に分析した上での、書面審理とするのが、すみやかな被害者の救済につながり、公平である。