名古屋の弁護士事務所 北村法律事務所

名古屋で弁護士に相談するなら北村法律事務所へ。B型肝炎訴訟、相続、交通事故、離婚など、お気軽にご相談下さい。

コラム

逮捕・勾留の重さ

2012年10月26日 カテゴリー:刑事

誰でもが、ある日突然、被疑者になり、身柄を拘束されてしまう恐れがある。あなたになりすました犯人は、遠隔操作したあなたのパソコンから犯罪予告メールを送信できるのだ。Tor(The Onion Router)という接続経路匿名化のフリーソフトを使用したとのこと。しかも、日本の警察や裁判官は、IT犯罪に強くない。警察がIPアドレスを証拠として逮捕状を請求すると、人権侵害をしないためのチェック機能を果たすことが憲法・刑訴法から期待されている裁判官が、安易に逮捕状を発布してしまうのだ。
さらに、裁判官は、罪証隠滅の恐れや逃亡の恐れの存否を厳格にチェックせず、勾留状を発布してしまう。警察は簡裁や地裁を使い分け、逮捕勾留状をもらいやすくしている。

(1)東京都の男子学生(19)は、横浜市の小学校へ襲撃予告をしたとして神奈川県警に逮捕され勾留された。「自供しないと少年院に行くことになる」などと自供を促したとのことである。この男性はやってもいないのに、自白し、有罪となり保護観察処分となっている。

(2)アニメ演出家男性(43)は、大阪市のホームページに無差別殺人予告を書き込んだとして大阪府警に逮捕され勾留された。一貫して否認。

(3)福岡市の無職男性(28)は、秋篠宮ご夫妻の長男が通う幼稚園に脅迫メールを送ったとして9月1日に威力業務妨害容疑で逮捕され勾留され、子役タレントの事務所にもメールを送ったとして同月21日に再逮捕された。男性は、同居の女性がやったと思いかばうために自分がやったと自白したが、後に否認するなど供述は変遷していた。しかし、検察官は起訴した。

(4)津市の男性(28)は、インターネット掲示板に伊勢神宮の爆破予告を書き込んだ疑いで三重県警に威力業務妨害容疑で逮捕された。一貫して否認。

自白を促したと思われる東京の大学生の事件からわかるように、警察や検察は、厚生労働省の村木厚子さんを冤罪に巻き込んだ郵便不正事件の教訓を全く生かしていないように思われる。

裁判所もなぜ簡単に「罪証隠滅の恐れ」や「逃亡の恐れ」があるとするのだろうか。

現在、弁護している事件は公務執行妨害被告事件である。警察官に対する暴行脅迫ではなく、検知管を折ったというもの。
ひき逃げ犯をさがしていた警察官に警察署へ連れてこられたのが17:00、酒臭いというので検知管で酒気帯びを検査されたのが、17:30頃、その後の20:04、交通課の取調室のスチール机の上に置いてあった被疑者の私物を入れる茶色い箱の中に入れられていた茶封筒に入った検知管を、「自分の私物の中にこんなものがあったのか、なんだろう」と思って持ったが、結果的に折れていたというものである。もちろん、ひき逃げはしていないが、帰りたいと言っても帰してもらえず3時間以上拘束されていた。

そもそも、大切な証拠物の検知管を被疑者が手をのばせばすぐとれる取調室の机の上の、しかも、私物入れに置くということ自体、警察官のミスである。証拠物の折れた検知管入りの茶封筒は検察官が保有しており、証人は全員が警察官であるから、証拠隠滅をすることが不可能な事案である。
また、被疑者は、定住所と10年以上一緒に住んでいる内縁の妻があり、警察署のすぐ横に実家があり、その実家で警察官らに両手をつかまれて警察署に連れてこられたのである。

起訴前に、勾留取消請求、準抗告などを行なったが、裁判所は勾留し続けた。起訴後第1回公判後、ようやく保釈金ができる見込みがたったので、保釈請求をした。検察官は判を押したように、証拠隠滅の恐れがあるという意見を出してきた。すると、一審の担当裁判官までもが証拠隠滅の恐れがあるとして保釈を許可しなかった。準抗告審で、ようやく保釈金200万円で保釈が認められた。その決定は 、「本件事案の内容、被告人の応訴態度、審理の状況等を踏まえて検討するに、飲酒検知までの経過のほか、損壊された飲酒検知管の形状等の客観的事実も、取調べ済みの証拠により明らかとなっている上、罪体に関して重要証人の取調べは未了であるが、その証人はいずれも警察官であって、同人らに対して被告人が働きかけ、あるいは威迫を加えるなどして罪証を隠滅する具体的なおそれは乏しいといわざるを得ない。」と判示した。

一審担当裁判官は、有罪の推定を持っているとしか思われない。警察官たちは不自然不合理な証言をしている。勤務中に、作られた問答書面をまる暗記していると喫煙室で証人の警察官2人が話していたと、たばこを吸いにいった傍聴人が教えてくれた。

昨今、警察官の犯罪や不祥事が新聞記事を賑わしている。情報漏えい、覚せい剤、酒気帯び運転、酒に酔って火災現場で住民に暴言を吐き部下の頭を平手で殴ったという警察署長もいる。

お酒はこわい。この被告人も警察官も検察官も裁判官も弁護士も同じ人類である。この被告人は極悪非道の人ではない。
無罪の推定のもとに、裁判官の果たすべき役割を果たしていただけたら、こんなに簡単に逮捕勾留される人が多いという現状は変えることができるのではないか。

出会い系で知り合った18歳未満の女性と合意の上で性関係を持ったことが発覚すると、必ずといっていいほど逮捕勾留される。私が弁護した男性は、そのため仕事を辞めざるを得なかった。知り合いの警察官に聞くと、その種の性犯罪は逮捕・勾留することが慣例になっているとのことであるが、あまりにも理不尽である。

逮捕、勾留は、その人の人生を変えてしまうほど重いことなのだ。そのことを裁判官は胸に刻んで、逮捕勾留する必要性があるか、逃亡の恐れがあるか、罪証隠滅の恐れがあるか、厳密にチェックしてほしい。
日弁連では、逃亡や証拠隠滅を防ぐため、住居の特定や事件関係者との接触禁止を裁判所が命令する方法を提案しているが、日本の刑事司法の改革は急務である。



pagetop