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コラム

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違憲判決をもっと気軽に

2010年06月22日 カテゴリー:民事

1.「顔の傷の補償に性差があるのは違憲である」という判決が、2010年5月27日、京都地裁でなされたという新聞報道があった。労災のケースであった。弁護団の糸瀬美保弁護士にお聞きしたところ、国側は控訴せず、判決が確定したとのことであった。本当によかった。 厚生労働省令や自賠法施行令第2条別表第二は、外貌醜状(顔の傷等)の後遺障害の補償金額について、次の通り規定している。

※「著しい醜状」とは、「顔面部にあっては、鶏卵大面以上の瘢痕、長さ5cm以上の線状痕又は10円銅貨 大以上の組織陥凹」
※「醜状」とは、「顔面部にあっては、10円銅貨大以上の瘢痕又は 長さ3cm以上の線上痕」 ※「著しい醜状」とは、「顔面部にあっては、鶏卵大面以上の瘢痕、長さ5cm以上の線状痕又は10円銅貨 大以上の組織陥凹」
※「醜状」とは、「顔面部にあっては、10円銅貨大以上の瘢痕又は 長さ3cm以上の線上痕」

男 性 女 性 男女間格差の金額
(男性に比べて
女性が何倍か)
後遺障害の
等級
保険金額 後遺障害の
等級
保険金額
著しい醜状を
残すもの
12級 224万円 7級 1051万円 約5倍
醜状を残すもの 14級 75万円 12級 224万円 約3倍

これは明らかな性差である。
政治的なものではなく、明らかな性差であるにもかかわらず、裁判所はなかなか違憲判決を出してくれなかった。

2.実は、私も、2007年から2008年にかけて、交通事故により、男性の顔に著しい醜状が残ったケースで、違憲判決を求めて訴訟活動を行なった。
二木雄策先生と伊田広行先生に意見書を書いてもらい、提出した。「運命の顔 藤井輝明著」「ユニークフェイス 石井政之ら著」も提出した。アンケートをとり、その結果も提出した。   二木先生は、経済学者で自らの娘さんを交通事故で亡くし逸失利益に性差があることの不合理性・不条理性を鋭くつき、「交通死」(岩波新書)を著し問題提起された方である。伊田先生は、社会学者で性同一性障害に詳しい方である。このような男性に対する差別を争うことは、「命の値段は低いが、顔だけ高い」と評価されている女性に対する差別との闘いでもある。
しかし、1審の名古屋地裁の城内和昭裁判官は、あっさり合憲とした。2審の名古屋高裁は、以下のように判示し、合憲とした。 「外貌醜状という後遺障害においては、それによって生じる被害の程度が男女により大きな差のあることは否めないところである。まず、現在においても、一般的には、自己の容姿に対する関心度は女性の方が高く、また、社会の関心も男性の容姿より女性のそれに対する関心の方が高いということができる。したがって、同程度の外貌醜状であっても、・ ・ ・ ・慰謝料額も(女性を)高額とするのが相当である。次に、逸失利益であるが、同程度の外貌醜状であっても、一般的には、男性より女性の方が就職それ自体が制約されてしまう場合や、その職業の継続に困難を来す場合が多く、しかもその影響を受ける期間も長きにわたる可能性が高いということができる。したがって、同程度の外貌醜状であっても、男性よりも女性の逸失利益を高額とするのが相当である。そして、自賠責保険が基本的には損害賠償を保障する制度であり、別表が類型化を図って大量の事案を迅速公平に処理するために定められたものであることからすれば、同程度の外貌醜状の場合についても上記の男女差に基づいて類型化を図り、男性と女性の後遺障害の等級に差異を設けることの方が合理的である。」(名古屋高等裁判所平成18年9月13日判決)

古い!この裁判所も違憲判決を書くのは嫌なのかなと思っていた。が、そうではなかった。

3.この判決をなした名古屋高裁の裁判長は、あのイラク派遣は違憲であると判示した青山邦夫裁判長であった。 「イラクにおいて航空自衛隊が行なっている空輸活動は、武力行使を禁止したイラクにおける人道復興支援及び安全確保支援活動の実施に関する特別措置法(イラク特措法)2条2項、活動地域を非戦闘地域に限定した同条3項に違反し、かつ、憲法9条1項に違反する活動を含む。」(平成20年4月17日判決 判例時報2056 P.74)

控訴人の請求自体は棄却されたため、被控訴人である国は上告することができなかった。国が上告できない工夫をし、詳細な事実認定をした渾身の判決であった。この判決は大きな波紋をよび、政府にも影響を与えたと思われる。

4.しかし、ショックだったのは、青山裁判長が判決後、間もなく定年を待たずして退職されたことだった。 私は、この種の違憲判決をだした裁判官は人事で報復を受けてきたと聞いている。

いまだ違憲判決をいただきたいものがある。裁判官を辞める覚悟をしなくても、窓際へ追いやられることもなく、良心のみに従って判決ができるようにならなければ、国民の裁判を受ける権利は保障されない。(憲法76条3項)