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コラム

Monthly Archives: 5月 2013

カルテのないC型肝炎患者の闘い(3)

2013年05月07日 カテゴリー:C型肝炎給付金請求訴訟

水俣病訴訟から見る裁判所の役割

2013年4月16日、最高裁が、水俣病訴訟について判決をしました。この最高裁判決は、水俣病に関する裁判所の果たすべき役割や救済法等の制定の趣旨について明言しています。

「処分した行政庁の判断の適否に関する裁判所の判断は、行政庁の判断に不合理な点があるかどうかという観点から行われるべきではない。裁判所が経験則に照らし、個々の事案における事情と証拠を総合的に検討し、具体的な症状と原因物質との間に因果関係があるのかないのかを審理対象とし、水俣病の罹患を個別具体的に判断するのが相当だ。」

また、「昭和52年に国の認定基準が示した症状の組み合わせが認められない感覚障害のみの水俣病は存在しない、との科学的な実証はない。」 と判示して、立証責任を転換しているとも思われます。

そして、次のように結論付けました。 「52年基準は一般的な知見を前提として認定する形を採ることで、多くの申請を迅速かつ適切に判断するための基準を定めたもので、その限度での合理性はあった。他方で、症状の組み合わせが認められない場合でも、経験則に照らし、証拠を総合的に検討した上で水俣病と認定する余地はある。」

薬害C型肝炎訴訟における裁判所の役割

では、薬害C型肝炎訴訟における裁判所の役割は、どのようなものでしょうか。

(1)薬害C型肝炎被害は、国家とミドリ十字等製薬会社の長期にわたる犯罪的行為により多くの国民が被った被害です。 その被害者の救済方法としては、水俣病や薬害スモンのように、行政機関が被害者か否かを認定するという方式も考え得たのですが、議員立法によって成立した被害者を救済するためのC型肝炎特別措置法(以下、「C肝特措法」という。)は、行政機関ではなく、司法機関たる裁判所に被害者か否かの認定を任せることにしました。

(2)薬害C型肝炎訴訟は、通常の国に対する損害賠償請求訴訟とは、異なる特徴を持っています。 なぜなら、通常の国家賠償請求訴訟では、①国家の故意過失、②損害額、③因果関係の主張立証をすることになっていますが、 薬害C型肝炎訴訟では、
(a)原告が、フィブリノゲン製剤などを投与されたという過去の事実
(b)原告が、C型肝炎ウィルスにより、肝がん、肝硬変、慢性C型肝炎に罹患したり、
キャリアであるという現在の事実
のみの立証が、課題だからです。

① 国の過失は、主張立証する必要がありません。漫然とフィブリノゲン製剤の製造販売を認め、昭和52年、アメリカでフィブリノゲン製剤の認可を中止したにもかかわらず、そうしなかった国に大きな過失があることを前提としたのがC型肝炎特別措置法だからです。

② 損害も立証する必要がなく、病状によって一律に4000万円、 2000万円、1200万円なのです。

③ 因果関係も立証する必要がありません。C型肝炎ウィルスに汚染されたフィブリノゲン製剤を静脈注射したり、フィブリン糊を出血している部分に投与すれば、血液を介してC型肝炎ウィルスに罹患することは、わかっているからです。

(3)また、C肝ウィルスに汚染されたフィブリノゲン製剤等が製造流通していた時期は、1964年から1994年(昭和39年から平成6年)ですが、C肝特措法が成立した平成20年1月までには、大幅な年月が経過しています。医師法24条によりカルテ等の保存期間は5年です。したがって、立法者は、立法以前から、C肝特措法の対象となる被害者の多くについて、カルテ等が廃棄されていることは分かっていたのです。

被害者のうち、幸いにも数十年前の医療記録が残っている者については、裁判所が判断を示すまでもなく、基本合意書に従って国は和解に応じます。そうすると、裁判所が判断を示す必要のある事案とは、カルテ等の客観的証拠等が残っていない事案に限られることになります。

汚染薬剤の投与という事実は、カルテ等がないので客観的な立証は不可能といえるから、裁判所が判断を示すべき事案では、常に原告が敗訴せざるを得ないことになってしまいます。
しかし、被害者救済のためのC肝特措法は、証拠が廃棄されていることを奇貨として、立証責任によって、被害者の請求を棄却する目的で制定された法律ではありません。その全く逆の理念である「一律救済・迅速救済」が前文で謳われています。
そう考えると、「一律救済・迅速救済」の立法趣旨は、証拠上、汚染薬剤によってC型肝炎ウィルスに感染した相当程度(一般の民事事件の程度よりかなり低くてもよいはずである。)の可能性が認められる者は救済の対象とし、明らかに不当請求を行っている者、他原因による罹患であると客観的に認められる者等だけをスクリーニングするというのが、裁判所に課した役割だといえます。

すなわち、裁判所の判断は、基本合意書においてさえ、「所見」という特別な文言を使用しているとおり、それが単純に民事訴訟法を適用した心証や判決ではなく、被害者を救済するためのC肝特措法によって「被害者救済に資する方向に軌道修正された心証に基づく判断」という意味に捉えるべきなのです。