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コラム

C型肝炎訴訟 カルテのないC型肝炎患者の闘い(18)

2015年12月02日 カテゴリー:C型肝炎給付金請求訴訟

C型肝炎訴訟 人の記憶

カルテのないC型肝炎訴訟は、とても難しい訴訟である。
人の記憶というのはどんなものなのだろうか。これまで医師7名の方の証人尋問をやらせていただいた。国や製薬会社は、証人の医師に対して、なぜこの原告にフィブリノゲン製剤やフィブリン糊を投与したことを覚えているのかを何度も追及した。
A医師は心臓血管外科の手術は全て覚えていると答えた。B医師は、この原告さんの子宮が膨大していて妊娠しないと思っていたのに妊娠したし、出産後通常の卵大の子宮に戻ったのでよく覚えているし、自分がフィブリノゲン製剤を投与した患者さんの名前は全て覚えている、と答えた。C医師は、なぜ覚えていると言われても、覚えているから覚えているんですと答えた。D医師は、たくさん手術を手掛けた中でも子宮外妊娠の緊急手術は一年に一回ほどしかなかったし一週間もたってから救急車で運ばれてきたケースはまれだったのでよく覚えている、テレビの手術シーンのように思い出すんです。と答えた。・・・

今後は、原告の本人尋問に移っていく。先日元ミドリ十字、現田辺三菱は、原告らの陳述書について「原告らの出産状況についての陳述内容はいずれも長期間経過してからの陳述であり、通常であれば記憶が薄れているのが自然であるし、しかもカルテなどの客観的な証拠や、出産に立ち会った医師や医療関係者が存在しないにもかかわらず、医師または医療関係者の現場での発言や、投与されたとする薬剤の形状などについて陳述するなどあまりに不自然であり、その信用性に疑問があると言わざるをえない。」という主張をした。
確かに原告らの出産は昭和40年代、昭和50年代であり、長期間経過している。しかしながら、このような主張は、C型肝炎であることが判明するまでの間に、長期間経過することや、いわゆるC型肝炎特別措置法が平成20年1月に至って、ようやく制定されたことに全く配慮することがなく、カルテが保存されていなかった原告らは、医療関係者が生きていて、フィブリノゲン製剤等を投与したという証言をしてくれない限り、立証不可能であると主張していることと同じである。
また、医療関係者にとっても、30年~50年という長期間を経てからの陳述や証言になるので、たとえ医療関係者が陳述書を作成しても、証人台に立って証言しても、信用できないと主張することと同じである。
そうであれば、いわゆるC型肝炎特別措置法がフィブリノゲン製剤を投与されたという事実の立証責任を原告に課していると解釈すること自体が誤りであるということになる。
なぜなら、カルテが残っていなかったり、仮に残っていたとしても名古屋大学附属病院心臓血管外科のようにフィブリン糊投与の事実を記載しないのが通常であったりすれば、原告らは、立証不可能な立証責任を背負わされているということになるからである。

そこで田辺三菱補助参加人に次のような求釈明を行った。
(1)補助参加人は、同じ長期間の年数を経ているにもかかわらず、医師の証言は信用し、原告が、自ら経験したことを陳述した陳述書を信用できないと主張する根拠はなにか、釈明されたい。
(2)フィブリノゲン製剤を静注する場合、点滴をするものであるが、フィブリノゲン製剤の瓶は透明な高さ10センチくらいの小さな瓶である。
アメリカの貧民窟での売血など1000人以上のプール血漿から取り出したフィブリノゲンを乾燥させて白い粉末状になったものを高さ10cmくらいの小さな瓶に入れ、その瓶に、セットして販売していた50ccの蒸留水を入れて、溶かして透明になったフィブリノゲン製剤を、そのまま、すなわち、小さな瓶をそのまま逆さにして、点滴スタンドにぶら下げて静注するよう、ミドリ十字は病院や医師に説明し、とても便利なもので、止血剤としての効果が高く、3年間保存もきく等というセールスをしていたのである。
他の止血剤であるアドナ等は、輸液のパックの中に入れて静注していたのとは異なり、フィブリノゲン製剤は、極めて特徴的であった。また、小さい瓶であったため、500mlの輸液や200mlの輸血のパック等と比較して、大きさからいっても、形状的にも、極めて特徴的である。
そのため、原告や医師など医療関係者の中には、50年経ってもフィブリノゲン製剤のびんを覚えている人もいるのである。
以上のとおりなので、原告らの中には小さな瓶が点滴スタンドにぶら下がっていたり看護師さんが持ってきたことを覚えている原告がいるものであるが、どこに不自然性があるのか釈明されたい。

カルテのないC型肝炎訴訟は、とても難しい訴訟で私は辛酸なめ子である。



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