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コラム

C型肝炎訴訟 カルテのないC型肝炎患者の闘い(17)

2015年11月09日 カテゴリー:C型肝炎給付金請求訴訟

映画「評決」を見て

ポール・ニューマン主演の「評決」を見た。医療過誤訴訟を扱った映画である。
全身麻酔は、9時間以上前に食事をした人に対してしかやってはいけないことになっている。吐瀉する恐れと、吐瀉した物が気管に詰まる恐れがあるからだ。出産のため病院に訪れた妊婦が全身麻酔をされ手術(帝王切開)されたが、心停止になり、話せない・聞こえない・立ち上がれない等の重篤な後遺症が残ってしまった。

この事件は圧倒的に原告が不利であった。被告医師2名は著明な医師であるのに対し、原告側の証人は老開業医のみ。ポール・ニューマンは著明な医師に証人を頼もうと思っていたが、被告側が手を回し、その医師は行方をくらましてしまった。裁判官も被告側につき、示談を勧めたり、被告側に有利な訴訟指揮をする。
ポール・ニューマンも、初めは示談で済まそうとしていた。相手は大病院だから相応の額はくれる。簡単に金になるいい仕事だと、そう思っていた。
しかし、実際に植物状態となってしまった被害者の悲痛な姿を目の当たりにした彼は、正義を志す。一念発起し、証人探しに奔走し始めたのである。
.何とか見つけたのが、当時その病院で働いていた看護師だ。既に病院を辞め、保母として働いていた彼女の証言は、「カルテには確かに1時間前に食事を取ったと記載した。しかし疲労が溜まっていた医師はそれをよく読まず、全身麻酔をしてしまった。そして医療事故が起きた。焦った医師は看護師に対し、『1時間前』を『9時間前』に書き換えないと、看護師を続けられなくしてやると脅した。」というのである。

何とか、その看護師に証人になってもらうことができた。しかし被告代理人弁護士は、時間稼ぎをして判例を助手に調べさせた。「看護師の持つカルテのコピーは、既にこちらが原本を証拠として提出している。証拠として認められない。」と判例を掲げて主張。被告側は、改竄したカルテの原本を先に提出していたのである。さらに「突然の証人は弾劾証拠としての証拠能力しかない。看護師の証言はすべて削除される。」という判例があると主張。被告側寄りの裁判官は、被告代理人の主張を採用し、陪審員に、この証人の証言は証拠から排除されると告げた。この裁判官が判決するのであれば、原告は確実に敗訴だ。

しかし、原告は勝訴した。一般人から選ばれた陪審員らは、正義を支持したのである。裁判官が看護師の証言を考慮しないよう伝えても、不正を目の前で証言された陪審員らの心証を覆すことはできなかった。
陪審員が「賠償額を原告の請求額より多くできるか」と裁判官に聞くシーンがあったが、被告寄りの裁判官であっても、「できます」と答えるしかなかった。

この映画を見ると、カルテがないC型肝炎訴訟の代理人である私は身につまされる。
カルテがない。医師は証人になりたがらない。それにも関わらず国は医師が生きている限り、医師の証人尋問を要求してくる。その医師がフィブリノゲン製剤等を使ったと証言しない限り、原告は勝訴できないと国は主張する。補助参加している田辺三菱(元ミドリ十字)は、フィブリノゲン製剤の病院ごとの納入実績につき、証拠を隠し、一部しか開示しない。圧倒的に原告が不利な裁判なのだ。
医師が証人になりたがらない理由は、フィブリノゲン製剤に止血剤としての効果があったというエビデンス(証明)がなかったにも関わらず医師たちが使用したため、C型肝炎になったので、医師の責任も問われかねないからである。もちろん、原告らはこの訴訟において、医師の責任を一切問うてはいない。しかし、医師は少しでも自分の責任を問われる恐れがあれば、証人にはなりたがらない。また、医師の中には医療過誤訴訟で痛い目に遭っている方もおり、医局や学会や医師会を通じて狭い医師の世界に「裁判に出ると大変なことになる」という噂が広く伝わっているからである。

それにしても、ひとりひとりの原告について、このような立証活動をしなければいけない訴訟だということを理解せず、私は引きうけてしまった。カルテのある厚生省方が救済されているのであるから、カルテのない方であっても、カルテのないことに何の責任もない方は、一律救済がすみやかにできるものだと思って代理人を引き受けてしまったのである。
真の一律救済ができる日がいつ来るのだろうか。



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