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コラム

C型肝炎訴訟 カルテのないC型肝炎患者の闘い(15)

2015年04月17日 カテゴリー:C型肝炎給付金請求訴訟

C型肝炎訴訟 フィブリノゲン製剤という血液製剤

  1. 早稲田先生は、フィブリノゲン製剤の功罪についてもよくわかっておられた。
    人間の血液中には、フィブリノーゲンという血液凝固因子が存在する。フィブリノゲン製剤は、上記の血液凝固因子を精製抽出してつくられたもので、止血剤としてミドリ十字が販売した。
  2. 産婦人科領域では、昭和40年頃から、DIC(播種性血管内凝固症候群)になりやすい常位胎盤早期剥離や弛緩出血など多量出血の場合、止血のためにフィブリノゲン製剤の投与が推奨されていた。
  3. 東京地裁は、1975年(昭和50年)2月13日、すみやかに止血剤を投与せず輸血もしなかったとして病院の医療ミスを認める判決をなした。(中間報告書(*)P.451:参考資料-参考1)
  4. フィブリノゲン製剤を投与すると非A非B型肝炎になることが広く知られたのは、昭和62年、青森の産婦人科医が、フィブリノゲン製剤を投与したら急性肝炎が集団発生したことを厚生省に報告し、昭和62年4月17日、読売新聞で「産婦8人が急性肝炎 血液製剤が原因?」と報道されたからであった。
  5. ミドリ十字は、フィブリノゲン製剤がアメリカの貧民窟の人達1,000人以上から採取したプール血漿から製造されていることを知っていた。そしてフィブリノゲン製剤を投与すれば肝炎になる恐れがあることを知っていたので、フィブリノゲン製剤の箱の中には、医師に対するアンケート葉書を入れていた。しかし、医師からフィブリノゲン製剤を投与した患者が肝炎になったという葉書がきても、握り潰し国に報告をしなかった。
    青森でフィブリノゲン製剤による肝炎の集団発生が明らかになると、ミドリ十字は、エイズの時と同じように考えて、「それまでのフィブリノゲン製剤が非加熱だったから肝炎になったので、加熱すれば肝炎にならない」と主張し、加熱したフィブリノゲン製剤の認可を申請した。
    すると、厚生省はすぐに認可してしまった。
    ミドリ十字は、青森の産婦人科医にも「加熱したフィブリノゲン製剤なら肝炎になりません。フィブリノゲンHT-ミドリを使って下さい」と述べて、持っていった。それを信じた青森の産婦人科医は、加熱したフィブリノゲン製剤を投与した。しかし、その産婦さんも肝炎になってしまったのである。
  6. 早稲田先生は、金沢で産婦人科医会の役員をし、年1回の全国集会に出ておられたので、そのような経緯をすべてわかっておられた。フィブリノゲン製剤を投与すると肝炎になるようだということがわかったら、すぐフィブリノゲン製剤の投与をやめたという。
  7. しかし、これまでの経緯を見ると、昭和40年頃から平成3年頃までは、DICになる恐れがあるケースや出血量が多いケースでは、フィブリノゲン製剤を使って止血しないと、産婦人科医の医療ミスと言われかねないのであって、産婦人科医の多くがフィブリノゲン製剤を使わざるを得なかったのである。
  8. 日本国民の多くの方に薬害C型肝炎という災いをもたらしたフィブリノゲン製剤は、認可が取り消されたかと思ったら、どっこいそうではない。アメリカでは1977年に販売中止になっているが、日本では、今もミドリ十字を承継した田辺三菱が販売しているのである。ただし、先天性フィブリノゲン欠乏症の患者に限りであり、産科DICなど後天性フィブリノゲン欠乏症に使用してはならないことになっている。

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フィブリノゲン製剤の発売当初からミドリ十字社は血清肝炎の生じる危険があることを認識しており、ミドリ十字社の前身である日本ブラッドバンク社の専務取締役で、後にミドリ十字社の会長になった内藤良一は、1963(S38)年に日本産科婦人科学会雑誌15巻11号に「乾燥人血漿について私のお詫び」を載せ、乾燥血漿製剤に関して紫外線照射は血漿の肝炎ウイルスを不活化するのには1958(S33)年にStrumiaから「殆ど無効」と判決が下されるに至ったことを述べている。また、同文書で「私の罪業と申しますのは、私は陸軍軍医学校教官で、戦争直前米国フィラデルフィアにおいて凍結真空乾燥の技術を学んだことが契機となって、この日本における乾燥血漿の製造を開発したことであり、その結果多くの患者さんをこの乾燥血漿によって肝炎に罹らせたことであります。」と述べ、併せて乾燥人血漿による肝炎発生率は英国で4.5%~11.9%と報告されている、と述べている。それにもかかわらず、日本ブラッドバンク社は1964(S39)年に紫外線照射で「不活化」することを条件にフィブリノゲン-BBankの承認を得て発売しているのである。
(中間報告書(*)P.354、P.355:(5)本章のまとめ-1))

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血液凝固因子製剤とは、血漿中のたんぱく質を取り出した血漿分画製剤の一種で、止血の役割を果たす特定の血液凝固因子を抽出したものである。凝固因子は全部で12あり、フィブリノゲン製剤は血液凝固第一因子フィブリノゲンを、クリスマシンやPPSB-ニチヤクは第九因子やその他複数の因子を精製抽出してつくられた。
(薬害肝炎 大西史恵 週刊金曜日発行 P.13)

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*)中間報告書
『薬害肝炎の検証及び再発防止に関する研究 中間報告書(薬害肝炎の検証および再発防止に関する研究班 2009年3月27日)』(http://www.mhlw.go.jp/shingi/2009/03/dl/s0327-12a.pdf)



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