名古屋の弁護士事務所 北村法律事務所

名古屋で弁護士に相談するなら北村法律事務所へ。B型肝炎訴訟、相続、交通事故、離婚など、お気軽にご相談下さい。

コラム

C型肝炎訴訟 カルテのないC型肝炎患者の闘い(14)

2015年04月10日 カテゴリー:C型肝炎給付金請求訴訟

C型肝炎訴訟 新幹線が春を連れてくる金沢にて

3月11日は、東日本大震災と福島原発事故のあった日である。4年後の2015年3月11日、金沢地方裁判所まで出張して、金沢にある早稲田産婦人科医院の早稲田健一先生の証人尋問を行った。名古屋弁護団では、出産に関わった医師の初めての尋問である。
前日の夜は名古屋にも雪が降り、北陸は暴風雪という天気予報だったので、無事に金沢へ行くことができるのか不安であった。新幹線で米原まで行き、米原で特急しらさぎに乗り換える予定だったが、新幹線が遅れているというニュースを見て、急遽、名古屋発しらさぎ3号に乗った。自由席も指定席も満席であったし、立ったままの乗客もいる。和倉温泉に実家があり、手を骨折した父が入院中だという美しい女性は、「今日は介護認定をしてもらい、父は家に帰りたいと言っているが、もう帰れないと思う」と言う。岐阜も米原も福井も雪国だった。

ところが、金沢はほとんど雪がない。「新幹線が春を運んでくる」という喜びにあふれた加賀百万石の金沢駅。タクシーに乗って、足が悪く、手も病気の早稲田先生をピックアップして、裁判所へ行く。裁判所へ行くと言うと個人タクシーの運転手が、突然金沢弁で掻き口説いた。「頼んだ弁護士にたくさんお金を払わされた。だから、今は自分で裁判をやっている。兄弟相手に、自分流の言葉で書いている。この前、裁判官がもっと請求しないのかと言ってくれた。」耳の痛い話であった。どうも兄弟が親の遺産を隠しているので、裁判をやっているらしい。
早稲田先生は、杖をつき、ゆっくり歩いて裁判所に入った。

Q.「Kさんにフィブリノゲン製剤を投与したことを、なぜ覚えておられますか?」
早稲田先生「子宮は、鶏卵大が普通なのに(妊娠していないときの子宮は本当に小さいのである)、Kさんのは、鵞卵(がらん)大になっていたので、子宮筋腫だと思っていた。子宮筋腫があって、妊娠したのが不思議な症例だった。また、子宮筋腫がある場合、妊娠しても流産することが多いが、流産はなかった。分娩後1か月して診ると子宮が正常な元の大きさに変わっていて不思議だと思った症例だった。また、出血が多かった。それで覚えている。」
Q.「では、出血量がどのくらいあると、経験から思った時にフィブリノゲン製剤を用意するのですか?」
早稲田先生「400ml以上の場合、用意します。」
Q.「出血量がどのくらいあると、フィブリノゲン製剤を使うのですか?」
早稲田先生「400ml~500ml以上の場合。」
Q.「カルテは残っていないのですね?」
早稲田先生「カルテは改装時破棄しました。カルテはないが、Kさんにフィブリノゲン製剤を投与したことは間違いありません。」
Q.「出血が多いとき出血を止めるのが大切なのですね?」
早稲田先生「そうです。」

早稲田先生は、フィブリノゲン製剤より輸血の方を先にしたと言うが、輸血の途中で三方活栓を使って、フィブリノゲン製剤を静注したとも述べた。
早稲田先生は、80歳だが、記憶力も理解力もバツグンであった。国側代理人のおかしな尋問をたしなめたり、本件とは直接関係ない尋問にも淀みなく答えられた。田辺三菱代理人のねちっこい繰り返しの尋問については、私達原告代理人が「異議あり!重複尋問です」と声を上げ、封じることができた。
早稲田先生は、出血量が多くフィブリノゲン製剤を投与した患者さんをほとんど覚えているという。
証人尋問が終わって、「お疲れ様でしたね」と声をかけると、「どうちゅーことないわいね」と金沢弁で答え、杖をついて裁判所を後にし、自分の病気を診てもらっている病院へ行かれた。

金沢地方裁判所は、贅沢な3階建てで、外壁は格子状に化粧され、白い石が敷き詰めてあり、古都の風情を漂わせ、美しかった。
金沢駅の新しい名店街で、彩りのよい2段重ねのお弁当を買い、帰路の特急しらさぎの中で、原告のKさんと一緒に、昼食兼夕食を食した。
疲れたけれど、安堵した。早稲田先生の尋問を他の原告さんにも有利に使わせてもらいたいと思った。
早稲田先生、本当にありがとうございました。



pagetop