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コラム

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婚外子の相続分2分の1に、最高裁が違憲判断下すか?

2010年11月22日 カテゴリー:遺産相続

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~弁護士北村明美(名古屋)の相続コラム~

 

2010年11月19日の新聞に「顔の傷 男女の補償平等に」という記事が載った。京都地裁の違憲判決の力によって、男女差別が撤廃されることになったのだ。本当によかった。

1947年施行された労災保険法が60年ぶりに見直されることになった。

男性への逆差別がなくなり、外貌醜状について、男女とも重症なら7級、軽症なら12級に統一し、中程度の病状なら9級を新たに設けることにするという検討会の報告書案が示されたというものである。
過去に交通事故で顔に5cm以上の線状痕が残ったA男さんや美容院の脱色剤で頭部が化学やけどになり手術を3回しても大きな傷が残ったB男さんにも遡って適用されるといいのにと思うが、多分無理だろう。

日本国憲法が施行され、憲法第14条が生まれたのは、1947年5月3日。相続事件では、廃止された家制度が生きていたり、男子のみに相続させる遺言がでてくる。「嫡出に非ずの子」は民法上法定相続分が嫡出子の2分の1である。

2010年7月10日の新聞を見ると「婚外子の相続分「半分」規定 最高裁、違憲判断か」という見出しが目に飛び込んだ。 平成7年以前、違憲とした地裁判決はあったが、平成7年7月5日、最高裁判所は、「非嫡出子の法定相続分を嫡出子の2分の1としたことは、法律婚の尊重と非嫡出子の保護との調整を図ったものであり、合理的理由のない差別とはいえず、憲法14条1項に反するとはいえない」と判示した。
一方で、民法を改正して平等にしようという機運が法務省参事官室も含めて起こっていた。しかし、改正案には選択的夫婦別姓の規定も含まれていたので、時の政権の古い議員達の強固な反対にあって民法改正は頓挫し、現在まで平成7年7月5日の最高裁判決が生きている。それをやがては、大法廷で違憲と変更をするのではないかというのが、今回の新聞記事である。

現実に今係争中の事件で婚外子の代理人である弁護士から「相続分を嫡出子と同じにしてもらわなければならない。それが認められなければ土地の売却を承諾しない」という主張がなされた。
土地は皆の合意で売却する手はずになったところだった。
この事件は、嫡出子が6人、婚外子が1人というケースである。嫡出子側の代理人弁護士の多数は、良識に溢れているので、「そりゃ子どもに罪はないですからねぇ。憲法14条の精神から言えば、平等の相続分にすべきなんでしょうねぇ。」という考え方だが、クライアントの胸中は複雑だ。
そのとき、ある弁護士が、「じゃあ、負債もそういう割合で負担してもらわなきゃいけないですね」と発言。亡くなった父親は、約2億円の負債を抱えていたが、それはすでに皆で支払っており、婚外子は嫡出子の2分の1の割合で支払った。これから売却する土地が2筆あるが、リーマンショック後、名古屋の土地の値段は下がったので、2億円を大きく下回ると思われる。売却が頓挫すると、名古屋の土地の値段は下がり行く一方なので、悩ましい限りである。

このように、婚外子の相続分が嫡出子と同じにすべきという判決が最高裁でなされると、影響する事案がたくさんあると思われる。子どもの数が少ないと影響も大きい。
相続の分野は、理論で割り切れないことがあったり、最高裁判例に疑問を感じたり、まだまだ解決しなければならない問題が多くあるように思われる。親族間のドロドロとした争いは、ますます増えていくだろう。基礎控除額を減らすという相続税法の改正も予定されており、目が離せない。

 

ぜひ、相続に強い名古屋市(愛知・岐阜・三重)の北村法律事務所 弁護士北村明美(052-541-8111)へご連絡下さい。

 

 

税務訴訟と噂の真相

2010年09月08日 カテゴリー:民事

年金型生命保険の課税方法が二重課税であるという最高裁判決の報道にふれ、最高裁までよく闘われたな、という感慨を持ちました。税務訴訟は、勝訴率が極めて低いと言われています。しかも、担当した弁護士や税理士、歯向かった当事者に税務調査が入るというまことしやかな噂があるのです。

しかし、近時、勝訴したケースの報道を目にすることが、かつてより増えたように思います。また、判決には至らないが、実質的な勝訴をしているケースも多いのではないかと思います。もっと情報を交換して、日本で最強の債権者に対抗する方法を共有させていただけたらと思います。

事案

亡くなった父親と、遺言でほとんどを相続した長男の2名は、主債務者A社(代表者Bは、著名な詐欺師であることが後に判明)が金融業者Cからお金を借りる際、連帯保証人になった。父親の所有土地の一部には、3億数千万円の抵当権も設定された。

Bは、「うちが介護施設の建物を建てます。あなた方は、お金を出す必要はありません。ただ、連帯保証して担保をつけさせていただければよいのです。相続税対策にもなるし、もうかります。」等と述べたが、Cに割賦返済金を2回支払ったのみで、行方をくらました。

他の弁護士に頼んで、金融業者Cを被告にして、父親と長男は訴訟提起したが、Cの不法行為性を立証できず、3億2000万円を支払うとの敗訴的和解をせざるをえなかった。

裁判の終局段階で父親が失意のうちに死亡し、長男は遺言により抵当権が設定されている本件土地を相続した。そして、その土地を売却して、約3億2000万円を金融業者Cに支払った。

そこで、本件土地を資産、3億2000万円を負債として計上して、相続税の申告をした。

後に税務調査が入った。

所轄税務署は、「父親と長男の2名が連帯保証をしていたのに、父親が全額支払ったのだから、父親は長男に対して3億2000万円の2分の1である1億6000万円の求償権がある。それは資産だから課税する。無申告加算税もだ。」等と述べ、ついでに古い家も固定資産税額より1000万円以上高く評価して、約3500万円の課税をしてきた。

そこで、長男は、原処分庁である所轄税務署に異議申立をなし、さらに、国税不服審判長に審査請求をなし、それでも国自らが処分の取消をしてくれなかったので、やむを得ず、国を被告として税務訴訟に踏み切らざるを得なかった。

長男の主張の骨子は、

(1)2重課税だ。資産を有していなかった長男が、相続により金持ちになったから、求償権は資産となるという税務署の論理は2重課税になる。

(2) 混同により求償権は消滅した。長男が遺言により父親の有する求償権を相続し、債権と債務が同一人に帰したから消滅した。

税務訴訟はどうなったかですが、何と第1回口頭弁論期日の3日前に、長男から私に電話がありました。「○○税務署の人が来て、お金払ってあげるから振り込み口座を教えてくれと言うんだけど、教えていい?」と。所轄税務署に聞くと、「すべて主張どおりに支払う。利息もつける。そういうことになった。お金は10日以内ぐらいに支払われる。」という回答。

拍子抜けしました。

理由はと聞くと、「二重課税になるという見解だから。」と悔しそうに答えました。

第1回口頭弁論期日、合議体でした。

国側代理人は、訟務検事が3人も来ていました。

直前に提出してきた答弁書には、「既に相続税の更正通知書及び過少申告加算税の賦課決定通知書を送達したところであり、…本件訴えは不適法なものというべきである。」

この訴訟をしたから税務署が更正等をしたのに、本件訴えは不適法とは、どの口でいえるのだろうか。訟務検事は取下げを要求したが応じず、訴訟費用は被告の負担とするとの判決をもらい、訴訟費用を回収しました。

このように、判決には至らなかったけど実質勝訴したというケースはありませんか?

ぜひお教え下さい。

ところで、噂の真相ですが、長男にも何と弁護士にも税務調査が入りました。

スッポンのような税務官で四苦八苦でした。こんなこと、ありですか。

それでもめげずに税務問題に取り組んでいきたいと思います。

 

違憲判決をもっと気軽に

2010年06月22日 カテゴリー:民事

1.「顔の傷の補償に性差があるのは違憲である」という判決が、2010年5月27日、京都地裁でなされたという新聞報道があった。労災のケースであった。弁護団の糸瀬美保弁護士にお聞きしたところ、国側は控訴せず、判決が確定したとのことであった。本当によかった。 厚生労働省令や自賠法施行令第2条別表第二は、外貌醜状(顔の傷等)の後遺障害の補償金額について、次の通り規定している。

※「著しい醜状」とは、「顔面部にあっては、鶏卵大面以上の瘢痕、長さ5cm以上の線状痕又は10円銅貨 大以上の組織陥凹」
※「醜状」とは、「顔面部にあっては、10円銅貨大以上の瘢痕又は 長さ3cm以上の線上痕」 ※「著しい醜状」とは、「顔面部にあっては、鶏卵大面以上の瘢痕、長さ5cm以上の線状痕又は10円銅貨 大以上の組織陥凹」
※「醜状」とは、「顔面部にあっては、10円銅貨大以上の瘢痕又は 長さ3cm以上の線上痕」

男 性 女 性 男女間格差の金額
(男性に比べて
女性が何倍か)
後遺障害の
等級
保険金額 後遺障害の
等級
保険金額
著しい醜状を
残すもの
12級 224万円 7級 1051万円 約5倍
醜状を残すもの 14級 75万円 12級 224万円 約3倍

これは明らかな性差である。
政治的なものではなく、明らかな性差であるにもかかわらず、裁判所はなかなか違憲判決を出してくれなかった。

2.実は、私も、2007年から2008年にかけて、交通事故により、男性の顔に著しい醜状が残ったケースで、違憲判決を求めて訴訟活動を行なった。
二木雄策先生と伊田広行先生に意見書を書いてもらい、提出した。「運命の顔 藤井輝明著」「ユニークフェイス 石井政之ら著」も提出した。アンケートをとり、その結果も提出した。   二木先生は、経済学者で自らの娘さんを交通事故で亡くし逸失利益に性差があることの不合理性・不条理性を鋭くつき、「交通死」(岩波新書)を著し問題提起された方である。伊田先生は、社会学者で性同一性障害に詳しい方である。このような男性に対する差別を争うことは、「命の値段は低いが、顔だけ高い」と評価されている女性に対する差別との闘いでもある。
しかし、1審の名古屋地裁の城内和昭裁判官は、あっさり合憲とした。2審の名古屋高裁は、以下のように判示し、合憲とした。 「外貌醜状という後遺障害においては、それによって生じる被害の程度が男女により大きな差のあることは否めないところである。まず、現在においても、一般的には、自己の容姿に対する関心度は女性の方が高く、また、社会の関心も男性の容姿より女性のそれに対する関心の方が高いということができる。したがって、同程度の外貌醜状であっても、・ ・ ・ ・慰謝料額も(女性を)高額とするのが相当である。次に、逸失利益であるが、同程度の外貌醜状であっても、一般的には、男性より女性の方が就職それ自体が制約されてしまう場合や、その職業の継続に困難を来す場合が多く、しかもその影響を受ける期間も長きにわたる可能性が高いということができる。したがって、同程度の外貌醜状であっても、男性よりも女性の逸失利益を高額とするのが相当である。そして、自賠責保険が基本的には損害賠償を保障する制度であり、別表が類型化を図って大量の事案を迅速公平に処理するために定められたものであることからすれば、同程度の外貌醜状の場合についても上記の男女差に基づいて類型化を図り、男性と女性の後遺障害の等級に差異を設けることの方が合理的である。」(名古屋高等裁判所平成18年9月13日判決)

古い!この裁判所も違憲判決を書くのは嫌なのかなと思っていた。が、そうではなかった。

3.この判決をなした名古屋高裁の裁判長は、あのイラク派遣は違憲であると判示した青山邦夫裁判長であった。 「イラクにおいて航空自衛隊が行なっている空輸活動は、武力行使を禁止したイラクにおける人道復興支援及び安全確保支援活動の実施に関する特別措置法(イラク特措法)2条2項、活動地域を非戦闘地域に限定した同条3項に違反し、かつ、憲法9条1項に違反する活動を含む。」(平成20年4月17日判決 判例時報2056 P.74)

控訴人の請求自体は棄却されたため、被控訴人である国は上告することができなかった。国が上告できない工夫をし、詳細な事実認定をした渾身の判決であった。この判決は大きな波紋をよび、政府にも影響を与えたと思われる。

4.しかし、ショックだったのは、青山裁判長が判決後、間もなく定年を待たずして退職されたことだった。 私は、この種の違憲判決をだした裁判官は人事で報復を受けてきたと聞いている。

いまだ違憲判決をいただきたいものがある。裁判官を辞める覚悟をしなくても、窓際へ追いやられることもなく、良心のみに従って判決ができるようにならなければ、国民の裁判を受ける権利は保障されない。(憲法76条3項)

銀行とゴルフ会員権

2010年03月30日 カテゴリー:企業問題

弁護士の実務に携わるまで、自由競争を基本とする企業社会は、対等・平等のものであると思っていました。
しかし、自由競争とは、まさに弱肉強食!
大きく強い企業は、取引契約自体を自らに有利なものとし、弱い企業には、一方的に義務を課すものだということがわかりました。

自動車関連業界では、下請・孫請に対し、定期的に単価の切り下げを行ない、景気が悪くなると、さらに協力という美名のもとに単価を切り下げる等してくるものだということを知りました。

強く、優越的地位がある企業の代表選手は、金融機関です。
金融機関が提示する契約条項に異議を唱えても、それじゃあ貸さないと言われるだけです。融資を申し込めば、過去何年分かの確定申告書の控え等、財務状況を提出させられ、家族関係も全て把握され、物的担保に加えて連帯保証人までつけさせられます。メインバンクであれば、継続的に把握されています。

かつて、銀行から「当行が融資するから、ゴルフ会員権を買わないか」と勧められた中小企業がたくさんありました。メインバンクからの勧めでは、なかなか断ることもできません。一種の抱き合わせ販売のようなものです。

「『このゴルフ場は、地元の優良企業が経営しており、値上がりしますよ。預託金は返還されるのが当然です。』などと銀行が言うのだから、間違いないと思い、融資を受けてゴルフ会員権を買いました。融資の利率は高く、随分返済させられました。」
しかし、平成16年末、そのゴルフ場グループの4社を残した会社は、民事再生と特別清算を、名古屋地裁ではなく、東京地裁に申立て、ゴルフ会員権は紙切れになってしまいました。

こういう事案で銀行に対する損害賠償請求が裁判所で認められているケースは極めて少ないと思います。何社もの被害者の中小企業が集団で訴訟を起こしても、裁判所はなかなか理解してくれません。

調べたところ、被害者側が一審では負けているが、東京高裁で勝訴した事件がありました。銀行は、旧第一勧銀 現みずほ銀行、ゴルフ場は富士カントリー富岡倶楽部です。
事案は、ゴルフ会員権ローンを完済していなかったため、銀行が原告となって、ローン未払金等の請求をしたものです。

判決要旨は、次のとおりです。
「X銀行の行員はゴルフ会員権を売却し、融資成績を上げようとして、きわめて安易に、顧客であるYに本件ゴルフ会員権ローン契約を締結させて本件ゴルフ会員権を購入させたものであり、Yの本件ゴルフ会員権についての投資価値について、儲かることのみに目を奪われた決定的な思い込みをしている状況を放置し、相応の説明反論をしないまま購入の勧誘をしたものであって、不作為による欺罔行為に匹敵する過失があったというべきであり、X銀行の不法行為責任を否定することはできない。」
(金融・商事判例№1222/2005年8月15日号)

顧客である被告の過失は5割とされていますが、5割分だけでも、銀行の責任を認めてくれた画期的な判決です。

前述のゴルフ会社グループの会員権の売り方は、顧客とゴルフ会社がゴルフ会員権を売買するのと同時に、銀行はゴルフ会員権に質権を設定して会員権価額と入会金分のお金を貸します。そのお金は、顧客を素通りして、ゴルフ会社に支払われ、ゴルフ会社は、同額をその銀行に預金していました。また、ゴルフ会社は、ゴルフローンの連帯保証をしていることも判明しました。銀行とゴルフ会社はお互いに出向し人的交流もしていました。銀行としては、ゴルフローンの融資で利息を稼ぎ、預金獲得もでき、いいことがたくさんあったのです。

しかし、日本のプロ裁判官は、高度の立証責任を顧客である中小企業に課してきます。民事裁判にアメリカのようなディスカバリーや陪審制が導入されていたら、プロ裁判官とは違う判断を下すのではないでしょうか。ゴルフ場グループは、その後どうなったかですが、約半数は他社に売却しましたが、残り十数か所のゴルフ場の経営を続けているのです。舌を巻くほどのスキームで計画的にやらなければ、できるものではありません。