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コラム

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相続法が変わった(3) 「特別受益と遺留分の民法改正」

2021年02月09日 カテゴリー:コラム, 遺産相続

相続法が変わった(3)

「特別受益と遺留分の民法改正」

 

1.特別受益について、民法改正がなされた点は、

遺留分の算定の基礎となる財産の範囲を見直し、相続人に対する贈与であっても、

遺留分権利者に損害を与えることを知って行った贈与を除き、その持ち戻しは相続開始前10年以内にされた贈与に限る、とした点である。

旧法では、法定相続人に対する贈与は、10年以内という限定付けはなされていなかったものである。

この改正は、実務をやるうえで、結構大きな影響を与えるものと思う。

 

2.

(二男)「弟(三男)だけが大学へ行かせてもらっている。しかも私立だ。私も兄も母親には中学までしか行かせてもらえなかった。」

(三男)「兄さんだって大学まで行ってるじゃないか。」

(二男)「自分は親には中学までしか出させてもらえなかった。自分で働きながら夜間高校に行き、夜間大学まで行ったんだ。

お前のように全部母親に私立大学の学費や生活費をだしてもらっているわけじゃない。」

(長男)「僕は中卒ですよ。会社勤めをしても学歴がないから出世できなかった。それで会社を辞めて自営せざるをえなかったんだ。」

(二男)「お前だけだ。いい思いをしたのは。自分も兄貴(長男)も小学校のときから新聞配達をやらされて、給料全部を母親がとっていった。

中卒後就職したが、結婚するまでの間、給料のほとんどを母親がとっていった。」

(長男)「私は結婚しても、母親の要望で、母親や三男と同居したけれど、母親がきつい人で、やがて妻がうつ状態になってしまい、別居するしかなかったんだ。」

(二男)「自分もだ。兄貴夫婦が家を出たあと、どうしても自分に同居してくれと母親がいってきたから、嫁と一緒に同居した。嫁は働いていたが、

母親が何かにつけうるさく言うので、ノイローゼになってしまい、結局別居を選ばざるをえなかった。

弟は、自分や兄貴夫婦の苦労を知っていたのに、結婚しても母親と同居し続け、結局全部自分に相続させるという遺言を書かせたんだ。あまりに汚い。」

 

遺留分減殺請求訴訟における長男、次男と三男のそれぞれの主張であった。争点は多かったが、争点の一つは、

どこまで教育を受けさせてもらったか、私立大学まで行った三男に特別受益はあるかであった。

被相続人である母親は、たくさん土地を持っており、売れば、長男や二男も少なくとも高校ぐらいは出してやれたはずであった。

しかしケチであり、「お金がない。うちは貧乏だから」といって、長男と二男には就職させ、就職後の給料の大半を家に半ば強制的に入れさせていたのである。

三男は、国公立大学ではなく、私立大学(4年制)にまで行かせてもらっている。

40年以上前の私立大学の学費がいくらであるのか、その当時の生活費がいくらかかるのかの立証は、難しかった。

三男は、「自分は、飲食店でアルバイトをして、そのアルバイト代で学費も生活費も賄った。」と主張した。

そして、今も飲食店をやっている店主から、1970年頃に大卒の初任給より高いアルバイト料をもらっていたという書面まで取ってきた。

にわかに信じがたい書面であった。この件は和解が試みられたが、決裂し判決となった。国立大学卒の裁判官は三男の特別受益を認めてくれた。

改正後は、このように、し烈に戦ったことが、なつかしいなぁ、もう今後はこういう争いはほとんどなくなるのかな、ということになっていく。

 

3.教育だけではなく、通常の贈与であっても、10年より前の贈与であれば、遺留分を算定するうえで考慮されなくなる。

現在は、人生100年時代といわれているように、親世代はずいぶん長生きし、子どもが相続するときは、

60代70代になっていることもざらである。また、遺言をのこしていく方も増えた。

そうすると、10年より前に贈与した不動産や金銭、新築資金、嫁入り資金、というのも全く考慮されなくなる。

但し、これらは遺言があって、遺留分減殺請求の場面においてである。遺言がない場合の遺産分割協議では、

法定相続人であれば10年以上前の贈与であっても、その贈与の価額を加えたものを相続財産とみなして、各人の相続分を算定することとなる。

相続法が変わった(2)自筆証書遺言書保管制度のメリット 遺言が有効か無効かの争い

2021年02月09日 カテゴリー:コラム, 遺産相続

相続法が変わった(2)

自筆証書遺言書保管制度のメリット

1.遺言が有効か無効かの争い

ここ数年、遺言が有効か無効かが争点となる事件を何件かやっている。

(1)自筆証書遺言

①自筆証書遺言は、偽造したと疑われて、争われやすい。

・筆跡鑑定が行われたのは一澤帆布事件は有名である。

・養子縁組届の養親欄に、父親から頼まれて息子が代筆した。

父親の昔の愛人の子から養子縁組無効確認訴訟が提起され、当然敗訴。

さらに、愛人の子は、自筆証書遺言無効確認訴訟を提起。

その遺言は、病気をした後、真実、父親が自筆で書いた遺言だった。

しかし、病気をした後だったので、達筆だった筆跡は見る影もなかったが病気前の筆跡に似ていた。筆跡鑑定が行われ、父親の筆跡ではないという結果が出てしまい敗訴。

ここまでは、他の弁護士が息子さんの代理人であった。

2件の敗訴判決のあとを私が引き継いで、文書偽造罪で告訴された刑事事件や損害賠償請求事件、遺産分割事件など長くてつらい闘いの代理人をしたことがある。

②自筆証書遺言は、被相続人が遺言に書いておいたからと言い残していったが、死後、探しても見つからないということがある。

③自筆証書遺言の内容が家訓や説教ばかりで、誰に何を遺贈するのか書いてないものもあった。

(2)そのため、多くの弁護士は、少し費用がかかるけれど、公正証書遺言にした方が確実ですよとアドバイスしてきた。

実際、公正証書遺言の無効を主張して、勝訴できる確率は低い。

公正証書遺言を無効とした裁判例多いようにみえるが、それは無効とした裁判例の多くが公刊物に載っているからだと思われる。

なぜなら、作成した公証人も立ち会った証人も

「口授はあった」「うなずき遺言ではなく、遺言者はかくかく発言した」

「よく理解していて、何ら不自然なところはなく、遺言能力がないとは

思わなかった」等と証言するからだ。

私は30年以上弁護士をやっているが、公正証書遺言無効を争って、勝訴(勝訴的和解を含む。)したのは2件だけである。重い認知症で遺言能力がないと裁判所が判断してくれたケースであった。