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コラム

Yearly Archives: 2013

C型肝炎訴訟 カルテのないC型肝炎患者の闘い(6)

2013年10月04日 カテゴリー:C型肝炎給付金請求訴訟

C型肝炎訴訟 B型肝炎被害者救済のための審理方法に学ぶべきこと

B型肝炎も、C型肝炎と同様、”キャリア→慢性肝炎→肝硬変→肝がん”と進行する重篤な病気である。

予防接種によりB型肝炎に感染した場合、B型肝炎特別措置法によって、被害者は救済されている。C型肝炎特別措置法と同様、被害者をすみやかに救済し、給付金をすみやかに支払おうとする法律である。予防接種によりB型肝炎被害者となった者は、国に対して国家賠償訴訟を提起し、必要とされる書面を提出すれば、書面審理のみで訴訟上の和解ができ、給付金を支払ってもらうことができる。

B型肝炎の場合、国の過失は、集団予防接種の際、医師が注射器(注 射針と筒)の連続使用するのを厳しくやめさせなかったことである。裁判所も、国も、原告となったB型肝炎被害者に対し、「予防接種をした医師を捜し出して、注射器の連続使用したことを証言させよ。」という要求はしない。予防接種したことさえ立証すれば、注射器の連続使用は推定される。

予防接種をしたことに関するカルテはそもそも存在しない。
母子手帳に予防接種したことが記載されているが、母子手帳を紛失してしまったケースも多い。その場合、予防接種痕が左腕に残っていることを医師に目視してもらって書面に記載してもらったり、予防接種台帳が残っている市町村の証明をもらえばよいだけである。

裁判所も国も、カルテの残っていない薬害C型肝炎被害者をすみやかに救済するというC型肝炎特別措置法の趣旨にのっとって、審理方法を大きく変更させるという決断をすべきである。カルテの残っていた原告と公平にするためには、カルテの残っていない原告も、過去の解決事例を類型的に分析した上での、B型肝炎の場合と同様、書面審理とすべきなのである。

 

C型肝炎訴訟 カルテのないC型肝炎患者の闘い(7)

2013年10月04日 カテゴリー:C型肝炎給付金請求訴訟

C型肝炎訴訟 カルテが残っていても「フィブリノゲン」が記載されていない!

相談に訪れた患者さんの中には、カルテや手術記事(1枚あるいは1行 のもの)の残存している方が10名以上あった。 皆、いわゆるカルテのある患者のための弁護団から断られた方達だった。 私は、目を皿のようにしてそのカルテや手術記事をみた。2度、3度とみた。しかし、どこにも「フィブリノゲン」という記載はなかった。 カルテがあるのに、フィブリノゲンの記載がないと、フィブリノゲン製剤を投与されなかったことが確定的で、カルテがない方より不利だと思われた。

例外として、NさんのN大学附属病院での心臓の手術を担当したA医師が 、「カルテには書いてないが、止血のためにフィブリン糊を塗布して使ったことをはっきり覚えている」と言って下さった

「手術方法は、障害された大動脈弁を切除し、人工弁を取り付けるものでした。心臓手術は、昭和40年頃より全国の施設で実施されるようになり手術件数も増加しましたが、昭和60年頃においても、手術時出血は大きな問題で出血対策は大きな課題でした。体外循環使用心臓手術はヘパリン(抗凝固剤)を投与するために術中に創部からにじみ出る血液漏出(oozing)に伴う出血が必ずあります。さらにこの頃は再手術・体外循環時間延長例が増加したことから手術に伴う出血はやはり大きな問題でした。その当時より少し前に、ドイツ・オーストリアを中心としてフィブリン糊が考案・臨床応用され、人工血管吻合時の血液漏出を防止するsealing処置ある いは心縫合部分の止血目的で塗布使用され、その出血に対する有効性が報告されました。私のチームも、多数の患者さんにフィブリン糊を使用し、1984年にMedical Postgraduate誌22巻第6号にその有効性を発表しました。この発表以後も、フィブリン糊の有用性から手術に使用しました。フィブリン糊は医師としては手術に使用する医療補助品として使用した感覚があり、カルテ記載はしませんでした。ただ、Nさんでは手術時に確実にフィブリン糊を使用しました…。」

そして、A医師とそのチームが発表した論文も下さった。
N大学医学部は、愛知県の公立病院に医師を派遣し、絶大な力を有して いる。

T市の市民病院もN大学医学部から医師が派遣されている。
T市民病院の医事課のS氏は、次のように話してくれた。「平成19年、C型肝炎の患者さん2百何十名の方が、一気にどーっと 来られた。カルテがないかと。うちの病院は移転しているもんだからカルテはもうなかったけど、手術記事だけは残っていた。1人につき1枚のオペ記事です。しかし、私の知る限り、フィブリノゲン製剤と書いてあるものはありませんでした。」
私は思わず、「そんなはずがない。お宅さんではフィブリノゲン製剤を納入しておられるので」すると、S氏は、「納入している事実はもちろんあります。」「当然使っていたと思います。」「ただ、それを使うことに対して、当時の医師達っていうのは何ら意識をしてないもんですから、書かないんですよ。」と話した。

何と、フィブリノゲン製剤やフィブリン糊が使われていても、カルテや手術記事に記載されていないことが、多々あるのであった。このような実情を、裁判所や国会議員や厚生労働省にぜひ知ってもらいたい。カルテが残存していても、救済されたのは、幸いにも「フィブリノゲン」と記載されていたラッキーな方達だけなのだ。

A医師には、医師の良心がある。だから、正直に話して下さり、書面も書いて下さった。
しかし、T市民病院の対応はひどい。S氏「他の病院がどうであれ、うちは公立病院であるので、そこは、踏み入った言及、推測を病院の名前で出すことはできないねっていうのが、病院の判断なんです。」

赤十字病院などは、「フィブリノゲン製剤を使用していた可能性がある」と書いて下さるところもあるが、T市民病院は病院長の方針だという。この裁判は、医師や病院の責任を問うものではないことをよく理解していただき、患者救済のために、医師の意見をぜひ述べてほしいと心から願っています。

C型肝炎訴訟 カルテのないC型肝炎患者の闘い(5)

2013年09月25日 カテゴリー:C型肝炎給付金請求訴訟

C型肝炎訴訟 「カルテがない」ことの難しさ

薬害C型肝炎特別措置法は、国家賠償法の特別法であり、原因行為や因果関係や損害額について、被害者の立証責任を軽減し、国の過ちを認め、すみやかに被害者を救済するために、制定された法律である。
C型肝炎特別措置法制定後のこれまでの薬害C型肝炎訴訟における原因行為(フィブリノゲン製剤などの投与)に関する審理の実態をみてみると、カルテのある原告については、カルテのみの書面審理を行なうことで十分で、簡略であり、カルテのある原告はすみやかに救済された。ところが、カルテのない原告の中で給付金がもらえたケースは極めて少ない。

新聞報道されているものは、

  • 出産に立ち合った担当医が生きていて、「この出血量なら当時の方針でフィブリノゲンを使っただろう」と証言したことと、母子手帳や当時の担当医が残したメモに出産時に大量出血があったと記されていたケース
  • 出産に立ち合った医師が死亡していたため、麻酔医を捜し出し、証人尋問を実施し、「その女性を担当した記憶はないが、もし担当だったら投与していただろう」との証言を得、さらに同じ病院に麻酔医として派遣された可能性がある医師10数名にアンケートを行ない、数人から上記と同様の回答を得たというほど苦労しているケース
  • 出産に立ち合った医師が死亡していたが、その子どもの医師が証言したケース

である。

誰が医者にフィブリノゲン製剤を使い始めさせたのか

裁判所や国は、カルテのない原告らに対し、医師の証人尋問を要求してくる。
担当医師が生存していても、カルテがないので医師自身がわからないとか記憶がないという書面を書いても、医師の証人尋問を要求してくる。
国は、その根拠として、カルテのある原告と同様の立証をしてもらわないと不公平になるとか、フィブリノゲン製剤などは、病院や医師によって投与した症例が異なると主張しているようだ。

しかし、薬害肝炎の検証及び再発防止に関する研究班の「中間報告書」に記載されているとおり、全国の医師たちが治療方針を決めるために、読んでいたのは、「今日の治療方針」という雑誌である。それには、まず産科領域では出産女性がDICに陥りやすく、出血多量で命を落とすことも多いため、フィブリノゲン製剤の使用が推奨され、薬害肝炎の検証及び再発防止に関する研究班の「中間報告書」には、それが婦人科の手術にも用いられるようになり、さらに、心臓外科や消化器外科、気胸、やけどなどに広く使用されるようになっていったことが記載してある。

弛緩性出血で産婦が死亡したケースで、東京地裁が「医師が迅速な止血措置(線溶阻止剤や線維素原の投与(フィブリノゲン製剤などの投与のこと))を行わなかったことを医師の過失」と認定したため、より一層、産婦人科では、フィブリノゲン製剤の使用につながったのである。(東京地裁昭和50年2月13日判決)

すなわち、裁判所が、薬害C型肝炎被害者を増加させる役割を担ってしまったのだ。

立証の壁

これまでのように、原告毎に医師などの証人尋問を要求することを裁判所が是とすれば、医師は原則として出張尋問であり、医師が多忙で診療時間は尋問に応じることができないため、10年かかってもこの訴訟を解決することはできない。
そして、解決が長引けば、原告は亡くなり(すでに亡くなった方がいる。)、生存している医師も亡くなってしまい、立証の壁は富士山より高くなっていく。そして、C型肝炎特別措置法のすみやかに被害者を救済するという精神を踏みにじった国と製薬会社が笑うということになってしまう。

カルテのない原告については、過去の解決事例を類型的に分析した上での、書面審理とするのが、すみやかな被害者の救済につながり、公平である。

C型肝炎訴訟 カルテのないC型肝炎患者の闘い(4)

2013年07月10日 カテゴリー:C型肝炎給付金請求訴訟

舛添要一さんは、今は新党改革という弱小の党に属しているが、元は自民党である。
2007年8月、安倍晋三内閣に厚 生労働大臣として初入閣。安倍総理大臣がわずか1か月で退陣表明した後、福田康夫総理大臣となったが、その時も引き続き 厚生労働大臣を務めた。
そして、2008年1月、C型肝炎特別措置法などの制定にかかわったのである。 短期間に、カルテのある原告・弁護団の東京、大阪、名古屋 、福岡、仙台の訴訟の原告一律救済にこぎつけた経過が舛添さ んの「厚生労働省戦記」(中央公論新社)に書かれている。

まず、命のリスト(418人リストともいう。)問題が、マスコミで大きく報じられ、厚生労働省の怠慢が問題になった。4 18人リストとは、フィブリノゲン製剤によってC型肝炎に感染した418人の個人ごとの情報が記された症例リストであり 、三菱ウェルファーマー社から厚生労働省に、2002年、提供されていた。
厚労官僚は、舛添さんに418人リストには個人を特定できる情報は含まれていないとレクチャーした。そのため、2007年10月16日、舛添さんは民主党の福山議員が418人リ ストについて質問したことに対して、「国としては、誰々という個人名を特定できるリストを持っていない」と答弁したのである。
ところが、数日後、厚生労働省の地下3階の倉庫から個人を特定できる情報を含むリスト関連の資料が見つかった。 カルテのある全国原告団は記者会見し、山口美智子代表は、「今も感染を知らない人がたくさんいる。厚生労働省は事実にふたをしたかったのではないか。不作為どころか、悪意としか思えない」と批判した。 翌23日には、菅直人民主党代表代行らが厚労省地下3階倉庫に突入した。 こうして、418人リスト問題は、メディアを総動員する大問題になっていく。

国と製薬会社を追及する原告・弁護団、政府を追及する野党やメディア、それに対抗して保身を図る厚労官僚、法的整合性を維持しようとする法務官僚、財源がないと一点張りの財務官僚、それらの対立関係の中にあって、約2か月間で、この問題を解決しなければならなかったと、舛添さんは述べている。
役人たちの論理は、「これまで5つの地裁判決が言い渡されたが、これらの判断がすべて異なっており、救済対象を狭く限定した東京地裁判決の基準を超えて、広範囲に国の責任を認めることはできない。なぜなら、そうなれば、170人しかいない原告が1万人に膨れ上がる可能性があるからだ。しかも、B型肝炎や輸血によるC型肝炎感染者にも波及する可能性があり 、莫大な財政支出が不可欠となる」というものだった。
1万人という数字の根拠は、三菱ウェルファーマー社が算定したものである。 一方、カルテのある弁護団は、「提訴から6年が経ち、相談は1万件を超えるが実際原告になったのは約200人(2%)に とどまっている。また、カルテを保存している医療機関は7. 7%にしかすぎないので、国試算の数字に7.7%をかけても 1000人に満たない」と反論した。はじき出す数字が弁護団 と役人では全く異なる。
舞台は一番速く進んでいた大阪高裁が中心となり、水面下での交渉をしながら、同高裁は、予定よりも遅れて12月13日に、和解勧告骨子案と所見説明書を出した。骨子案は当事者間で調整中のため公表されず、所見だけが公表された。所見は「紛争の全体的解決のためには原告らの全員、一律、 一括の和解金の要求案は望ましいと考えている」としたが、これは「5地裁の判決に反する要求で、被告側の格段の譲歩がない限り、提示しないことにした。」 すると、原告・弁護団は、一律救済ではないとして、この勧告骨子案を即刻拒否した。 このような中、福田総理大臣の支持率は下がっていき、福田総理大臣の政治決断を求める声が広がっていった。賠償額の3分の2は、三菱ウェルファーマー社などのメーカーが負担し、国は3分の1を負担ということになり、一律救済という原告・弁護団の要求に応える意味で、基金を大阪高裁勧 告案より大幅にアップした30億円とするという努力を舛添さんはした。原告・弁護団は一律救済とならなかったので、12月20日 、政府の「全員救済」案を拒否し、和解協議は決裂した(原告・弁護団の拒否・決裂という決断はスゴイ!)。 しかし、世論の猛反発で、与党の中からも何とか解決策を見 い出すべきだという声が高まった。そして、与謝野議員は、議員立法による救済案を福田首相に進言してくれた。そして、福田首相は、議員立法で一律救済を行なうことを決めた。 このような息詰まる交渉と支持率の急落による政治決断などがあって、年が明けた2008年1月11日、参議院本会議でいわゆるC型肝炎特別措置法が全会一致で可決。15日には、厚生労働省の講堂で、原告・弁護団と舛添さんが基本合意書に調印した。

なんとダイナミックなC型肝炎特別措置法の成立過程だろう。
それに関わったカルテのある原告・弁護団、舛添さん、大阪高裁の裁判官、議員立法を進言したり作ってくれた議員の方々 、政府を批判してくれた野党、大きく報じてくれたマスコミなどに、感謝の気持ちでいっぱいになる。
カルテのある原告・弁護団が、交渉の過程で主張したとおり 、カルテが残っている病院はわずか7.7%にすぎず、ほとんどの方は、カルテのない患者である。すでに、カルテのある弁護団が救済した患者は1970人とも1985人とも言われている。それらの方々の製剤の種類、投与時期、投与した医療機関名・担当医師名、診療科、投与理由、輸血の有無の情報は、国が 保有している。 カルテのない患者にとって、どのような時期に、どのような診療科で、どのような投与理由で、どのような医療機関が、フィブリノゲン製剤等を投与し、患者はC型肝炎に感染したかの 情報を得ることは、自分達にもフィブリノゲン製剤を投与され たことが推定できる情報を得ることにつながる。

418人リストを厚労官僚の怠慢により放置した過ちを二度 と繰り返さないよう、国には、1985人リストを1日も早く開示してもらいたいと、カルテのない患者達は、切望している 。

C型肝炎訴訟 カルテのないC型肝炎患者の闘い(3)

2013年05月07日 カテゴリー:C型肝炎給付金請求訴訟

C型肝炎訴訟

水俣病訴訟から見る裁判所の役割

2013年4月16日、最高裁が、水俣病訴訟について判決をしました。この最高裁判決は、水俣病に関する裁判所の果たすべき役割や救済法等の制定の趣旨について明言しています。

「処分した行政庁の判断の適否に関する裁判所の判断は、行政庁の判断に不合理な点があるかどうかという観点から行われるべきではない。裁判所が経験則に照らし、個々の事案における事情と証拠を総合的に検討し、具体的な症状と原因物質との間に因果関係があるのかないのかを審理対象とし、水俣病の罹患を個別具体的に判断するのが相当だ。」

また、「昭和52年に国の認定基準が示した症状の組み合わせが認められない感覚障害のみの水俣病は存在しない、との科学的な実証はない。」 と判示して、立証責任を転換しているとも思われます。

そして、次のように結論付けました。 「52年基準は一般的な知見を前提として認定する形を採ることで、多くの申請を迅速かつ適切に判断するための基準を定めたもので、その限度での合理性はあった。他方で、症状の組み合わせが認められない場合でも、経験則に照らし、証拠を総合的に検討した上で水俣病と認定する余地はある。」

薬害C型肝炎訴訟における裁判所の役割

では、薬害C型肝炎訴訟における裁判所の役割は、どのようなものでしょうか。

(1)薬害C型肝炎被害は、国家とミドリ十字等製薬会社の長期にわたる犯罪的行為により多くの国民が被った被害です。 その被害者の救済方法としては、水俣病や薬害スモンのように、行政機関が被害者か否かを認定するという方式も考え得たのですが、議員立法によって成立した被害者を救済するためのC型肝炎特別措置法(以下、「C肝特措法」という。)は、行政機関ではなく、司法機関たる裁判所に被害者か否かの認定を任せることにしました。

(2)薬害C型肝炎訴訟は、通常の国に対する損害賠償請求訴訟とは、異なる特徴を持っています。 なぜなら、通常の国家賠償請求訴訟では、①国家の故意過失、②損害額、③因果関係の主張立証をすることになっていますが、 薬害C型肝炎訴訟では、
(a)原告が、フィブリノゲン製剤などを投与されたという過去の事実
(b)原告が、C型肝炎ウィルスにより、肝がん、肝硬変、慢性C型肝炎に罹患したり、
キャリアであるという現在の事実
のみの立証が、課題だからです。

① 国の過失は、主張立証する必要がありません。漫然とフィブリノゲン製剤の製造販売を認め、昭和52年、アメリカでフィブリノゲン製剤の認可を中止したにもかかわらず、そうしなかった国に大きな過失があることを前提としたのがC型肝炎特別措置法だからです。

② 損害も立証する必要がなく、病状によって一律に4000万円、 2000万円、1200万円なのです。

③ 因果関係も立証する必要がありません。C型肝炎ウィルスに汚染されたフィブリノゲン製剤を静脈注射したり、フィブリン糊を出血している部分に投与すれば、血液を介してC型肝炎ウィルスに罹患することは、わかっているからです。

(3)また、C肝ウィルスに汚染されたフィブリノゲン製剤等が製造流通していた時期は、1964年から1994年(昭和39年から平成6年)ですが、C肝特措法が成立した平成20年1月までには、大幅な年月が経過しています。医師法24条によりカルテ等の保存期間は5年です。したがって、立法者は、立法以前から、C肝特措法の対象となる被害者の多くについて、カルテ等が廃棄されていることは分かっていたのです。

被害者のうち、幸いにも数十年前の医療記録が残っている者については、裁判所が判断を示すまでもなく、基本合意書に従って国は和解に応じます。そうすると、裁判所が判断を示す必要のある事案とは、カルテ等の客観的証拠等が残っていない事案に限られることになります。

汚染薬剤の投与という事実は、カルテ等がないので客観的な立証は不可能といえるから、裁判所が判断を示すべき事案では、常に原告が敗訴せざるを得ないことになってしまいます。
しかし、被害者救済のためのC肝特措法は、証拠が廃棄されていることを奇貨として、立証責任によって、被害者の請求を棄却する目的で制定された法律ではありません。その全く逆の理念である「一律救済・迅速救済」が前文で謳われています。
そう考えると、「一律救済・迅速救済」の立法趣旨は、証拠上、汚染薬剤によってC型肝炎ウィルスに感染した相当程度(一般の民事事件の程度よりかなり低くてもよいはずである。)の可能性が認められる者は救済の対象とし、明らかに不当請求を行っている者、他原因による罹患であると客観的に認められる者等だけをスクリーニングするというのが、裁判所に課した役割だといえます。

すなわち、裁判所の判断は、基本合意書においてさえ、「所見」という特別な文言を使用しているとおり、それが単純に民事訴訟法を適用した心証や判決ではなく、被害者を救済するためのC肝特措法によって「被害者救済に資する方向に軌道修正された心証に基づく判断」という意味に捉えるべきなのです。

C型肝炎訴訟 カルテのないC型肝炎患者の闘い(2)

2013年03月18日 カテゴリー:C型肝炎給付金請求訴訟

C型肝炎訴訟 カルテの有無に左右される状況

カルテが残っていない薬害C型肝炎訴訟を、名古屋で、はじめて提起したのは、2012年12月20日である。すでに、東京地裁、大阪地裁、鹿児島、熊本…等で提起されており、大都市名古屋は後発組である。
被告指定代理人(検察官や裁判官が国の指定代理人となっている。)は、第一回公判期日に、最初は欠席するつもりだったため、2013年2月に指定された。ところが、原告が意見陳述をすることを原告団が裁判所に申し入れたところ、被告指定代理人は、出頭したいと申し出、再度、期日の調整が行なわれ、結局、第1回公判期日は4月10日となった。

被告指定代理人らからの答弁書は、請求棄却を求め、
「いわゆるC型肝炎訴訟については、C肝特措法の制定により、同訴訟における損害賠償請求の要件事実の一部が認められる場合にC肝特措法に基づく給付金の支給が受けられることとなったため、被告(厚生労働大臣)は、平成20年1月15日、薬害肝炎全国原告団・弁護団との間で、C肝特措法に基づく給付金の支給を受けることにより紛争を解決するための基本合意書を締結し、C肝特措法所定の事実関係が認められる者との間で、裁判上の和解を成立させることとしている。したがって、本件訴訟についても、原告らが基本合意書を前提とする和解を求めるのであれば、被告は、原告らから提出される証拠を踏まえ、基本合意書に基づく和解の可否を検討したいと考えている。」と記載してある。

「薬害肝炎全国原告団・弁護団」というのは、カルテの残っていた原告団とその弁護団(団長鈴木弁護士)のことである。一部の原告団とその弁護団が、国と締結した合意書が、当該原告団に入っていない原告(正確にいうと「カルテが残っていないので、入ることを断られた」原告)やその弁護団を拘束できるというのは、どういう論理だろうか。不可解だ。

薬害C型肝炎訴訟原告、佐藤静子さんの訴え

佐藤静子さんは、すでに肝がんと診断され、余命3年と言われたが、この訴訟の途中で死ぬわけにいかないと、3年を超えて生きている人である。
東京地裁で提訴したカルテのない薬害C型肝炎訴訟の原告でもあるが、2011年5月24日、次のように、意見を述べている。

* * *

被告国の上申書を読んで、私たち原告の請求が正当に取り扱っていただけるのか、大変心配になってきました。裁判の進め方について意見を述べさせていただきます。

国の上申書は特措法成立当時の原告団と被告とが取り交わした「基本合意書」と「覚書」に則ってこの裁判を進めることを求めています。しかし、特措法が成立してから3年4か月経ちましたが、これまで和解が成立したケースを見ますと、カルテがあるかカルテとほとんど変わりのない医療書面をもっている人に限って、和解による解決がされていると思います。これは国が上申書のとおりの運用を裁判所に求めたからだと思います。

私たちは「カルテがないC型肝炎訴訟原告団」です。文字通りカルテがありません。
カルテがないのは私たちの責任ではありません。私たちは出産した時期や外科手術を受けた時期が、カルテのある方々より相当古く、そのためにカルテもなく、中にはお医者さんも亡くなり、病院も廃院になっている原告も少なくありません。 私たちがC型肝炎になったのも当然古く、それだけ長く闘病しています。私も2006年肝臓ガンと宣告されました。

特措法は議員立法で成立しましたが、前文で、 「政府は、感染被害者の方々に甚大な被害が生じ、その被害者の拡大を防止し得なかったことについての責任を認め、感染被害者及びその遺族の方々に心からおわびすべきである。」 「フィブリノゲン製剤及び血液凝固第Ⅸ因子製剤によってC型肝炎ウィルスに感染した方々が、日々、症状の重篤化に対する不安を抱えながら生活を営んでいるという困難な状況に思いをいたすと、我らは、人道的観点から、早急に感染被害者の方々を投与の時期を問わず一律に救済しなければならないと考えている。」と明確に謳っています。特措法成立時の附帯決議は、「『投与の事実』『因果関係』及び『症状』の認否に当たっては、カルテのみを根拠とすることなく、本人、家族等による記録、証言等も考慮すること。」と明確に決議していることはご承知のことと思います。

カルテやカルテと同等の医療関係文書がないと和解に応じないのは特措法や附帯決議に違反しています。裁判所におかれましては、国の上申書に影響を受けることなく、カルテが無い私たちの現実を直視していただき、当然のこととして私たちが一律救済の対象となるよう、適正に裁判を進めていただきたく、強くお願いいたします。

C型肝炎訴訟 カルテのないC型肝炎患者の闘い(1)

2013年01月22日 カテゴリー:C型肝炎給付金請求訴訟

C型肝炎訴訟

1.薬害C型肝炎

C型肝炎ウィルスに汚染されていた血液製剤(特定フィブリノゲン、フ ィブリン糊、クリスマシン等、以下「フィブリノゲン等」という。)を、 昭和39年6月から平成6年頃までの間、止血剤や接着剤として投与された患者さんが、後にC型肝炎ウィルスに感染していたことが判明した。
女性であれば、出産時に投与されていたことが多いが、その他の手術でも投与されており、男性も手術時に投与されC型肝炎ウィルスに感染していたケースがある。

2.C型肝炎救済特別措置法

  • C型肝炎訴訟の解決(感染被害者の早期・一律救済)のため、平成20年1月、福田総理大臣支持率下落を食い止めようという力学が働き、 舛添要一厚労大臣、大阪高裁裁判官、そしてカルテの残っているC型肝炎患者の
    弁護団団長鈴木利廣弁護士らの尽力により、 各地の訴訟は一律解決という美名のもと和解した。そして、C型肝炎救済特別措置法が議員立法により制定・施行(平成20年1月16日)された。
  • 特定の血液製剤(特定フィブリノゲン製剤、特定血液凝固第Ⅸ因子製剤)の投与を受けたことによって、C型肝炎ウィルスに感染された方又は相続人に対し、症状に応じて給付金を支給。【給付内容】肝がん・肝硬変、死亡 :4000万円

    慢性肝炎       :2000万円

    無症候性キャリア   :1200万円

  • 給付を受けようとする者は、国を被告とする訴訟を提起し、給付対象者であることを裁判手続の中で確認。確認されたら証明資料(判決、和解等)と併せて、
    独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)に請求を行う。 請求又はその前提となる訴えの提起等は、平成30年1月15日までに(時限立法)行わなければならない。

 

3.カルテのない難しさ

国を被告とする国家賠償請求訴訟において、通常、立証責任は原告にあるとされている。

原告となるC型肝炎患者の多くは、フィブリノゲン等の投与を受けた事実を立証することが困難を極めるのだ。なぜなら、国は、カルテを要求するが、カルテの保管期間が5年という短いもので、カルテのない被害者の方が圧倒的に多いからだ。カルテに替わる証明も医療機関からもらえない被害者も多いからである。

薬害C型肝炎訴訟原告の佐藤光俊さんは、次のとおり述べている。

(1)私は、高校生の時、血気胸の治療にC型肝炎ウィルス入りのフィブリ ン糊を投与され、C型肝炎になりました。長い間の治療は、副作用もあり、とても辛かったです。C型肝炎は移る病気なので、理解してくれる女性がなかなか現れず、結婚も遅く、ようやく平成11年に結婚することができました。

しかし、それ以後も私には治療が必要でした。妻は献身的に看病をしてくれました。

ところが、その妻が、乳がんであることがわかり、私の看病に力を入れていたため、発見が遅れ、平成21年3月、亡くなってしまいました。私に残されたのは当時4歳(平成16年5月22日生)の一人娘です。私は、その子を抱え、仕事をし、何とか生きてきました。

(2)私には、カルテが残っておらず、カルテのある弁護団からは弁護することを断られました。平成20年、C型肝炎訴訟が勝訴したというニュースが華々しく流れたのを複雑な思いで見ました。「C型肝炎特別措置法成立。一律救済!」というニュースもあったため、私も救ってもらえるかと期待しました。ところが、やはり、カルテがないと難しいというのです。製薬会社ですら薬害C型肝炎患者は、1万人以上いると言っているにもかかわらず、これまでに裁判で救済されたのは約1900人だそうです。
私は、残り8000人以上の中の1人なのです。

(3)カルテが残っていないのは、私たち原告のせいではありません。被告である国の責任です。 過去に薬害を起こしているにもかかわらず、カルテの保存期間に関する医師法を改正せず放置していたのは国です。カルテが残っていないのは、私たち原告のせいではありません。被告である国の責任です。

(4)立証責任を公平にしてください。カルテが残っていないことについて、何の責任もない原告に、カルテが残っているのと同じような立証責任を課さないでください。原告が現在残っている証拠でできる限り立証すれば、その余の立証は、国にさせてください。国が、あくまでも原告にはフィブリノゲン製剤が投与されていないと主張したいのなら、国がそれを立証すべきです。

昭和39年3月、ライシャワー駐日米大使が襲撃され、輸血で肝炎に感染した時、売血をやめるべきだという問題提起がされ、昭和39年8月、献血推進を閣議決定しました。それにもかかわらず、日本国は、昭和39年6月、フィブリノゲン製剤の製造を承認し、まもなくミドリ十字は米国の売血でつくったフィブリノゲン製剤を病院に売るようになったのです。

さらに、昭和52年、アメリカがフィブリノゲン製剤の承認をやめたにもかかわらず、日本国は放置しました。そのような国が立証責任を負うべきです。

また、出産や心臓手術や気胸など、当時、フィブリノゲン製剤やフィブリン糊が使用されていた蓋然性が高い分野の場合には、フィブリノゲン製剤が投与されていないと主張したいのなら、国がそれを立証すべきです。原告の中には、フィブリノゲン製剤やフィブリン糊やクリスマシンを投与した医師が死んでいるケースも多いのです。医師が死んだのは、原告の責任ではありません。平成16年になってようやく、フィブリノゲン製剤納入先医療機関を公表した国の責任です。

(5)私は、このような日本国の医療の現状及び裁判の現状を見ると、それを改めさせない限り、死んでも死にきれません。私を一生懸命看護し、ガンで亡くなった妻のためにも、裁判所には立証責任の公平な分配をするよう強く求めるものです。

(6)私達原告が流した涙と苦しみ続けた病気のつらさ、受けた差別、生活を脅かした治療費の重圧を、どうぞ、わかって下さい。カルテのある弁護団と福田首相の日本国が2008年(平成20年)1月に交わした基本合意書は、カルテの残っていない原告と弁護団を縛ることはできません。立証責任を公平にした真に公正な裁判をお願いします。

 

参考文献

薬害肝炎の検証および再発防止に関する研究班「薬害肝炎の検証及び再発防止に関する研究中間報告」(2009年3月27日)
『薬害肝炎裁判史』薬害肝炎弁護団編(日本評論社2012年1月)
『ドキュメント検証C型肝炎-薬害を放置した国の大罪』フジテレビC型肝炎取材班著(小学館2004年7月)
『厚生労働省戦記』舛添要一著(中央公論新社2010年4月)
『舛添メモ』舛添要一著(小学館2009年12月)