遺言は何度でも作れるか?どの遺言が有効か?
相続争いを防ぐための特効薬は遺言です。
誰に何を相続させるのか、それを指定していくわけです。一昔前は「お父さん、遺言を作っておいてくださいね」とでも言おうものなら、「俺に死ねというのか」と言ってすねてしまう人も多かったのですが、最近では残された配偶者や子どもたちのことを考え、遺言を残していく人も増えてきています。
さて、死亡後、遺産をどう分割するかの話し合いが行なわれるわけですが、それが最近では非常に早くなっており、通夜の日から始まることもあるようです。
加藤さんの場合
まあまあの資産を持った父親が亡くなりました。
子どもは長男の一郎、次男の二郎、長女の和子の3人です。
![]() |
公正証書遺言(一番最初に作成された)「財産分けの話は早いほうがいいよ。実は、おやじはやっぱり長男の俺に全部託していってくれたんだ」と言って、長男の一郎はポケットから遺言を取り出しました。 それは公正証書遺言で、「すべて長男一郎に相続させる」と書いてありました。 |
---|---|
![]() |
便箋に書いた自筆の遺言(二番目に作成された)「ちょっと待ってくれよ」次男の二郎が口をはさみます。「兄貴はその遺言をもらった後、あんまりおやじのところに寄りつかなかっただろう。おやじは嘆いて、やっぱり次男の二郎は一番かわいい。親思いだった、と僕にこういうものを書いてくれたんだ」と言って取り出したのが、 便せんに「遺言」と書いてあって、「全部、次男の二郎にやる」とあります。 |
![]() |
ビデオで撮影した遺言(三番目に作成された)「兄さんたち、ちょっと待って」長女の和子はあわてて声を出します。「お父さんが寝たきりになって、おしめを当てるようになって以来、兄さんたちはまったくお父さんに寄りつかなくなったでしょう。兄さんの嫁さんたちも仕事があるとか、汚いとか、陰で言っていたのを、お父さんは知っていたのよ。 そこで亡くなる3日前に、涙を流しながら『俺は古い人間だから男の子を大事にして、つい女の子はあまり大事にせずにきた。でも、こんな体になった時に世話をしてくれるのは実の娘なんだなあ。ありがとう。和子に全部俺の財産をやるよ』と言ってくれたのよ。 でも、お父さんは字が書けない状態だったので、私はビデオに撮っておきました」と言ってビデオを映し出しました。そうすると確かに、年老いたお父さんが何とかベッドの上に起き上がって、涙や鼻水を出しながら「和子に全部やる。和子に感謝する」と言っています。 |
さて、こんなふうに何度でも遺言を作れるものなのでしょうか。
また作れるとしたら、一郎、二郎、和子のうち誰の遺言が有効になるのでしょうか。
誰が持っている遺言が有効でしょうか?
![]() |
もっとも新しい手書きの文書が認められる和子さんには気の毒ですが、二郎さんのものです。遺言が何通も出てきた場合、日付の一番新しいものが有効になります。一番新しいといってもビデオの遺言は無効です。一郎の持っていたのは公正証書遺言ですが、種類にかかわらず日付の新しいものが有効となるのです。 |
---|
遺言は何度でも作成できますか?
実はできるのです。
何度でも作成できる遺言は、高齢者のために月光仮面やスーパーマンのような力を与えてくれます。
「大切に世話してくれたらおまえに多く遺産をやるように遺言を作成してあげよう。でも、遺言を作成したからといって大切にしてくれなかったら、書き直す」というわけです。
子どもたちに「わしは毎年1月1日に遺言を作り直すことにしているよ」と言ってある人もいるそうです。
「うーん、去年は次女が温泉旅行に招待してくれたから畑を一筆余分にやろうかな。長男もなかなか頑張ったな…」などと勤務評定。
でも、あんまりやりすぎると嫌われます。
「おやじは遺言で私たちを思いどおりに動かそうとする。汚い」。
嫌われないで、かつ、武器にするには、作成し直してもせいぜい数回ということにしておきましょうか。
ワープロで本文を作り、自筆で署名し実印をきちんと押した遺言は有効でしょうか?
公証人に作ってもらっていない場合、ワープロはダメです。
始めから終わりまで自分の字で書いてください。字が書けないという状態の場合、公正証書遺言にしましょう。