名古屋の弁護士事務所 北村法律事務所

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事例紹介3

兄嫁がいつの間にか両親と養子縁組をしていた

浜田良子さん(40歳)の場合です。
両親の死後、兄嫁の直美さんが2年前に両親と養子縁組していたのがわかったのです。でもこの話、ちょっとおかしい気がするのですが…。

賢い兄嫁のお手つき

直美さんは、しっかり者の嫁で通っていました。
働き者でもあり、昼はパートに出て、養豚も手伝い、家事もそつなくこなしていました。
農業をやってきた母親は学もなく、賢い嫁が煙たかったらしく、近くに住んでいる私のところへ終始手伝いに来てくれました。
私たち夫婦は肉屋をやっていました。母親が子守りに来てくれたり、畑で採れたじゃが芋をもって来てくれたりすると、コロッケの材料にできるので非常に助かりました。
そのうち母親はほとんど私の家で寝泊まりするようになりました。

しかし、父親がつまずいて足の骨を折り、看護が必要になったためやむを得ず、兄夫婦のいる元の家へ戻りました。
それでも寝たきりの父親の世話をしながら、畑から採れた野菜を乳母車に入れて、よく私のところへ持って来てくれます。
その日も私のところへ来る途中だったのです。
午後5時半、たそがれ時で見えにくかったのでしょう。
近道の道路を横断しているところを車にはねられ、死亡してしまいました。
母の死がこたえたのでしょうか、父親も2週間後に肺炎であっけなく他界してしまいました。

母親の交通事故による賠償の件は、保険会社から連絡があり、私と弟は兄の顔を立てて兄にその交渉を任せました。
でも、ずいぶんたっても兄は何も言ってきません。父親の遺産分けについても何も言ってきません。おかしいなと思い始めました。
後でわかったことですが、兄は10年前に父に「全部、長男に相続させる」という公正証書遺言を作らせていました。
それだけで足りないと思ったのか、2年前に嫁の直美さんが父母と養子縁組をしていたのです。
まだ母親は私の家で寝泊まりしていた時期です。
たまには父親のところへ帰ったりしていましたが、養子縁組をしたなどという話は一切聞かされていません。

おかしいと思いませんか。
兄は遺言に基づいて父名義の宅地や田を全部兄名義に変えてしまいました。
地方ですが、10億円近い価値があります。
それなのに、母親の交通事故の賠償金さえ相続税の支払いのために全部あてたと言うのです。
絶対、おかしいと思います。
私は、知人の紹介で、北村明美弁護士に相談することにしました。

解説

養子縁組について

良子さんとその弟から依頼を受けた北村明美弁護士は、長男と直美さんに対して養子縁組無効と遺留分減殺請求の訴訟を起こすようアドバイスしました。
遺言で「すべて長男に相続させる」と書いてもらっても、妹や弟に遺留分のあることは長男も十分知っていたので、遺留分さえ分けてやるのが惜しくなっていったのです。
そのため、直美さんと義父母との養子縁組を画策し、良子さんとその弟の遺留分を少なくしたと思われます。
養子縁組の届出を役所に出したのは、長男と直美さんだそうです。
証人が必要ですが、証人になったのは直美さんの兄夫婦だといいます。

ここで大切なのは、養子縁組届に直美さんの義父母が直筆で署名しているかどうかという点です。それを長男と直美さんに確認すると、とたんに歯切れが悪くなります。「そりゃ、もう」とか「そりゃ、そうだわな」と言葉を濁すだけです。
養子縁組が有効か無効かで遺留分の割合が違ってきます。

このケースはお父さんの遺産の額が多かったので、遺留分が6分の1になるのか8分の1になるのかは重大な問題でした。良子さんは、「私は嫁に行った身だから、気持ちよく田んぼを一反でもくれれば、それで引き下がるつもりだったのよ。でも兄夫婦は、一坪たりとも私や弟に分けようとしなかったのです。しかも、法事にも私たちを呼んでくれません。直美さんの親族が大きな顔をして実家に出入りしていることを伝え聞きました。
兄夫婦がそういう気なら、こちらにも考えがあります。
徹底して闘うつもりです」と決意を北村明美弁護士に、語りました。

良子さんには、法務局で養子縁組届のコピーをとってもらって、本当にご両親の署名かどうか見てみました。良子さんや弟さんの手元には、残念ながらご両親の書いたものがほとんど残っていないので、父親の筆跡を見るために、公証人役場へ行って父親の作成した公正証書遺言の原本のコピーをもらいました。その父親の署名と養子縁組届の父親の署名とを比較しました。似ている部分もあり、また違っているような気もします。
母親の書き残したものを探すのは苦労しました。ようやく思いついたのは、信用金庫からお金をおろす時の出金伝票です。信用金庫へ行ってそのコピーをもらってきました。
「養子縁組届のお母さんの筆跡はお母さんのものじゃない」良子さんも弟さんもそう感じました。
それに養子縁組をしたという2年前は、母親はほとんど良子さんの家に入りびたりだったし、養子縁組をしたなどという話はまったくしていなかったのですから、良子さんはこの養子縁組が無効であることに確信を持っていたのです。

この事件、結局、良子さんと弟が勝ち、直美さん(嫁)の負けということになりました。
本当に良かったです。
養子縁組が無効であることが、先に決着し、遺留分減殺請求の方は、裁判上の和解で決着がつきました。良子さんと弟は、遺産の約6分の1の土地と現金をもらったのです。

養子縁組の注意

お嫁さんの知恵のひとつとして、舅・姑さんと養子縁組をするということを挙げました。
養子は、相続において実子と同じ地位を得ることができます。
養子縁組をしてもらえるなら、養子縁組届出用紙には必ず舅・姑さんの直筆でサインしてもらい、印も実印など舅・姑さんでなければ持っていないものにしておいたほうが賢明です。

また、人の情というものも理解してほしいものです。「法事にも呼んでほしい。それに、自分のところで冠婚葬祭があれば、実家の跡継ぎであるお兄さんに顔を出してもらいたい」と思っている姉妹や弟が、日本ではまだまだ多いのです。そこのところを配慮すれば、跡継ぎが法律で取得できる分以上の遺産を取得しても、良子さんたちは文句を言わなかったでしょう。

さらに、いくら遺言で「すべて長男○○に相続させる」と書いてあっても、遺留分があることを知っていたはずです。遺留分の額はどれだけになるか、その額に見合うもので妹や弟にあげてもいいものはないか、不動産であげることができないなら代償金を支払う方法はどうかを検討し、長男は、良子さんや弟と話し合いをして、いくらか渡して、円満に解決したほうがよかったのですね。



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