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事例紹介1

父の初7日から始まった兄と妹の骨肉の争い

坂田真由美さん(42歳)の場合です。
女だからといって財産ももらえないのでしょうか。それぞれの夫たちも巻き込んでドロドロの争いが始まりました。

妹たちの反乱

父は5月23日に死亡しました。
初7日に、兄が私を含む妹3人を集め、「これに印を押してくれ」と、それが当然といわんばかりに切り出しました。その書面には、「私は被相続人からすでに相続分を超える財産の贈与を受けており、相続分の存しないことを証明します」と書いてあります。私たち姉妹は父から多額の贈与を受けたこともありませんし、兄の態度があまりに不遜だったため、「ちょっとよくわからないし」「相談してみないと」と口を濁し、早々に帰ってきました。

翌々日、妹たち2人は私の家に集まりました。
「そりゃ、確かにお兄さんは跡継ぎだし、お父さんやお母さんの世話もしてきている。でも、お母さんはお義姉さんが冷たくすると言って泣いて電話してくるわ」
「それに、お兄さんはお父さんの興した会社の後と継いでずいぶん裕福な暮らしをしているのに、当然のようにお父さんの遺産を全部取ろうなんて、ひどすぎるんじゃない。会社の株もだいぶん生前贈与をしてもらっているらしいし・・…」
「女だからといって、財産ももらえないなんておかしい。この不況で、うちもお金が入ればどんなにかありがたいわ」
など、3人は言い始めると止めどがありません。

ところで、昨日印を押してくれと言われた書面は何だったのでしょうか。妹が、弁護士に教えてもらったと前置きして言うには、これは便法で、相続分を超える財産の贈与を受けていない場合でも、この書面に署名押印すると、自分は何も相続しないという遺産分割協議をしたことと同じになるとのことでした。

「贈与を受けましたというものにサインをしたら、贈与税がかかってくるんじゃない?」と妹が言い出し、ともかく、この書面には署名押印しない、法定相続分どおりもらうということで意見は一致しました。

さらに、お母さんの今後のことが心配です。今までは頑固者のお父さんが一緒だったから、お兄さん夫婦と何とかやってこられたけれど、1人になった老母の立場は弱いものです。
「お母さんも法定相続分どおり相続してもらって、あの家を追い出されないようにしないとね」
「それに、お母さんが相続すれば、お母さんの万一の時、また、私たちの権利が主張できるわよ」
私たち3人はお母さんと手をたずさえて、兄に対し私たちの権利を主張していこうと思います。まずは遺産がどれだけあるかから調べましょう。夫も協力してくれると言っています。

長男の声

私は長男です。
親父は10年前に社長を退き、私が会社の後を継ぎました。
親父とおふくろとも同居して、面倒をみてきました。女房も頑固な親父によく仕えてくれたと思います。
これからも、おふくろの世話、法事などもしていかねばなりません。
当然、私が遺産の大部分を相続して斉藤家を継いでいくべきだと思いませんか。

もちろん、印付き料として妹たちには300万円ずつやろうと思っていたのです。
それなのに妹たちは法定相続分どおり7,000万円ずつよこせと言ってきて・……。7,000万円ずつなんてべらぼうです。
「親父の遺産は、自宅の土地建物(300坪)と1億円あまりの預金だけだ。
どこから7,000万円なんて出てくるんだ!」私はカーッとしてどなってしまいました。
妹たちは顔色も変えず、「お兄さん、会社の土地をお忘れではありませんか」と言います。
「会社の土地は会社のもので、親父の遺産ではないことぐらい知っているだろう」と言い返すと、「自社株に影響するんですよ。
工場の敷地は約2,000坪。バブルが崩壊したとはいえ、買った時よりずいぶん上がっているでしょう。
会社名義の土地が上がれば、自社株の評価も上がります」
次女も勢いをえて、「あんまりわけのわからないことを言うなら、お兄さんが生前贈与してもらった自社株や土地も問題にして、私たちは特別受益の持戻しを主張するわ」とまで言います。
私は血圧が上がり胸がトクトクしてきて、「おまえらだって、十分な嫁入り支度をしてもらっているじゃないか」と反論するのが精一杯でした。
また、妹たちは今まで盆暮と彼岸くらいしか家へ来なかったのに、親父が亡くなってからは、足繁く離れのおふくろのところへ来るようになったのです。
女房は「悪知恵をつけているに違いないわ。
きっと、『お父さんが亡くなったら、年老いた女一人なんて弱いものよ。財産をきちんと相続したほうがいい』とか、『お嫁さんより実の娘よ。いざとなったら私たちがお母さんの面倒をみるわ』と言っているのよ。
妹さんたちが離れへ来るのを拒否できないかしら」とやきもきしていました。
でも、実の娘が母親を訪ねて来ることを拒否しようがありません。

手をこまねいているうちに、とうとう、おふくろが裏切ったのです。
「会社も順調にいっているようだし、娘たちにはそれなりのものをあげてほしい。私も法定相続分の2分の1は相続しますよ」と、妹たちと同じことを言い始めました。
ショックでした。この先どうなるかと思うと、夜も眠れません。弁護士さんに相談することをようやく決心しました。

解説

長男も頭の切り換えが必要な時代

この相続争いは、妹さんたちに分がありますね。

長男には2つの弱点があります。
1つは、下手すると社長の地位を失いかねないということ。
2つ目は、お母さんが亡くなった時、また争いが起こりかねないということです。

(1)父上は遺言を残していかなかったので、長男の法定相続分はたった8分の1しかありません。

父上の所有していた自社株(長男が代表取締役をしている会社の株式で、非上場株)を法定相続分どおり分割すると、長男とその家族の分は、生前贈与分を含めても42%しかありませんでした。
お母さんと妹さんたちの法定相続分は合計8分の7あり、自社株全体の47%にもなります。
長男は従業員や得意先の所有している自社株を買い取って過半数まで所有しておかないと、社長の地位を失いかねません。
株式会社では株主総会で3人以上の取締役を選任しますが、これは多数決です。
つまり、自社株の過半数を所有する者が、自分の意にかなた取締役を選任できるわけです。
そして、取締役会で代表取締役を選任します。
したがって、お母さんと妹さんたちが自社株の過半数を取得し、長男を取締役に選任せず他の人を選任してしまったら、長男は取締役社長の地位を失ってしまうのです。
つい見落としがちな「自社株」には要注意です。

(2)2つ目のお母さんの件ですが、このケースは、相続税の節約という意味からも、お母さんに二分の一を相続してもらうしかありません。

配偶者は法定相続分以内を相続する場合、相続税がかからないからです。
あるいは、配偶者が1億6,000万円まで相続する場合、相続税はかかりません。
将来の2度目の争いも頭が痛いですね。
「長男だからほとんどを相続できる」という考えを捨ててもらって、法定相続分は8分の1しかないけれど、両親の世話をしてきたし今後も母の世話はしていくから、また、会社もやっていかねばならないから、妹さんたちに譲歩してほしいと下手に出るしかないでしょう。
日本の長男は、頭の切り換えが必要になってきましたね。

さて後日談——。

長男は、「私の完敗です。ノイローゼのようになってしまい、弁護士さんに指示されましたが、自社株を過半数まで買い占める気力もありませんでした。
そこで、妹たちにいくらかずつまとめて支払うから、おふくろの時だけはトラブルが起きないようにしてほしいと頼みました」 と、もはや長男の威力が通用しないことに気づいたようです。
仕事の上では辣腕家でも、身内の争いとなるともろいんですね。
ノイローゼ状態が続いて、毎日のように電話がありましたし、車で駆けつけてこられることもありました。

結局、どのように解決したかというと、

(1)妹さんたちに一人当たり5,000万円ずつ、代償金を払う。

ただし、合意が成立した時に1,000万円支払い、遺留分放棄が家庭裁判所で許可された時に残金を支払うことにしました。

(2)お母さんには2分の1を相続してもらいましたが、遺言と同じような効力を持つ死因贈与契約書を作成してもらい、「私が死亡した時、私の財産をすべて長男雄一に贈与し、雄一はこれを受領する」という約束を交わしてもらいました。

そして、お母さん名義の不動産につき、死因贈与契約に基づいて仮登記もしました。

ほっとしていましたら、また、長男から電話です。
「先生、もし僕がおふくろより先に死んだらどうなりますか?」「お母さんとは、確か26歳違っていましたよね。自分が先に死ぬなんて不安があるんですか」と尋ねながらも、いろいろな事態を考えました。
長男は車好き、海外旅行にもよく行っています。
お母さんより先に逝くことも、ひょっとしたらあるかもしれません。
そうしたら、せっかくの死因贈与契約も無効になります。弁護士過誤になっては一大事。
あわてて死因贈与契約を結び直し、「万一、お母さんより先に長男が死亡するか同時に死亡した場合、長男の子どもたちに贈与する」という文言をつけ加えました。
そして、さらに、危険な乗り物に乗る場合や危険なところへ行く場合は、長男とその子どもは別々に行き、一家が一時に危険に遭遇することのないよう、アドバイスもしておきました。
リスク・マネージメントですね。



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