名古屋の弁護士事務所 北村法律事務所

名古屋で弁護士に相談するなら北村法律事務所へ。B型肝炎訴訟、相続、交通事故、離婚など、お気軽にご相談下さい。

コラム

Yearly Archives: 2012

逮捕・勾留の重さ

2012年10月26日 カテゴリー:刑事

誰でもが、ある日突然、被疑者になり、身柄を拘束されてしまう恐れがある。あなたになりすました犯人は、遠隔操作したあなたのパソコンから犯罪予告メールを送信できるのだ。Tor(The Onion Router)という接続経路匿名化のフリーソフトを使用したとのこと。しかも、日本の警察や裁判官は、IT犯罪に強くない。警察がIPアドレスを証拠として逮捕状を請求すると、人権侵害をしないためのチェック機能を果たすことが憲法・刑訴法から期待されている裁判官が、安易に逮捕状を発布してしまうのだ。
さらに、裁判官は、罪証隠滅の恐れや逃亡の恐れの存否を厳格にチェックせず、勾留状を発布してしまう。警察は簡裁や地裁を使い分け、逮捕勾留状をもらいやすくしている。

(1)東京都の男子学生(19)は、横浜市の小学校へ襲撃予告をしたとして神奈川県警に逮捕され勾留された。「自供しないと少年院に行くことになる」などと自供を促したとのことである。この男性はやってもいないのに、自白し、有罪となり保護観察処分となっている。

(2)アニメ演出家男性(43)は、大阪市のホームページに無差別殺人予告を書き込んだとして大阪府警に逮捕され勾留された。一貫して否認。

(3)福岡市の無職男性(28)は、秋篠宮ご夫妻の長男が通う幼稚園に脅迫メールを送ったとして9月1日に威力業務妨害容疑で逮捕され勾留され、子役タレントの事務所にもメールを送ったとして同月21日に再逮捕された。男性は、同居の女性がやったと思いかばうために自分がやったと自白したが、後に否認するなど供述は変遷していた。しかし、検察官は起訴した。

(4)津市の男性(28)は、インターネット掲示板に伊勢神宮の爆破予告を書き込んだ疑いで三重県警に威力業務妨害容疑で逮捕された。一貫して否認。

自白を促したと思われる東京の大学生の事件からわかるように、警察や検察は、厚生労働省の村木厚子さんを冤罪に巻き込んだ郵便不正事件の教訓を全く生かしていないように思われる。

裁判所もなぜ簡単に「罪証隠滅の恐れ」や「逃亡の恐れ」があるとするのだろうか。

現在、弁護している事件は公務執行妨害被告事件である。警察官に対する暴行脅迫ではなく、検知管を折ったというもの。
ひき逃げ犯をさがしていた警察官に警察署へ連れてこられたのが17:00、酒臭いというので検知管で酒気帯びを検査されたのが、17:30頃、その後の20:04、交通課の取調室のスチール机の上に置いてあった被疑者の私物を入れる茶色い箱の中に入れられていた茶封筒に入った検知管を、「自分の私物の中にこんなものがあったのか、なんだろう」と思って持ったが、結果的に折れていたというものである。もちろん、ひき逃げはしていないが、帰りたいと言っても帰してもらえず3時間以上拘束されていた。

そもそも、大切な証拠物の検知管を被疑者が手をのばせばすぐとれる取調室の机の上の、しかも、私物入れに置くということ自体、警察官のミスである。証拠物の折れた検知管入りの茶封筒は検察官が保有しており、証人は全員が警察官であるから、証拠隠滅をすることが不可能な事案である。
また、被疑者は、定住所と10年以上一緒に住んでいる内縁の妻があり、警察署のすぐ横に実家があり、その実家で警察官らに両手をつかまれて警察署に連れてこられたのである。

起訴前に、勾留取消請求、準抗告などを行なったが、裁判所は勾留し続けた。起訴後第1回公判後、ようやく保釈金ができる見込みがたったので、保釈請求をした。検察官は判を押したように、証拠隠滅の恐れがあるという意見を出してきた。すると、一審の担当裁判官までもが証拠隠滅の恐れがあるとして保釈を許可しなかった。準抗告審で、ようやく保釈金200万円で保釈が認められた。その決定は 、「本件事案の内容、被告人の応訴態度、審理の状況等を踏まえて検討するに、飲酒検知までの経過のほか、損壊された飲酒検知管の形状等の客観的事実も、取調べ済みの証拠により明らかとなっている上、罪体に関して重要証人の取調べは未了であるが、その証人はいずれも警察官であって、同人らに対して被告人が働きかけ、あるいは威迫を加えるなどして罪証を隠滅する具体的なおそれは乏しいといわざるを得ない。」と判示した。

一審担当裁判官は、有罪の推定を持っているとしか思われない。警察官たちは不自然不合理な証言をしている。勤務中に、作られた問答書面をまる暗記していると喫煙室で証人の警察官2人が話していたと、たばこを吸いにいった傍聴人が教えてくれた。

昨今、警察官の犯罪や不祥事が新聞記事を賑わしている。情報漏えい、覚せい剤、酒気帯び運転、酒に酔って火災現場で住民に暴言を吐き部下の頭を平手で殴ったという警察署長もいる。

お酒はこわい。この被告人も警察官も検察官も裁判官も弁護士も同じ人類である。この被告人は極悪非道の人ではない。
無罪の推定のもとに、裁判官の果たすべき役割を果たしていただけたら、こんなに簡単に逮捕勾留される人が多いという現状は変えることができるのではないか。

出会い系で知り合った18歳未満の女性と合意の上で性関係を持ったことが発覚すると、必ずといっていいほど逮捕勾留される。私が弁護した男性は、そのため仕事を辞めざるを得なかった。知り合いの警察官に聞くと、その種の性犯罪は逮捕・勾留することが慣例になっているとのことであるが、あまりにも理不尽である。

逮捕、勾留は、その人の人生を変えてしまうほど重いことなのだ。そのことを裁判官は胸に刻んで、逮捕勾留する必要性があるか、逃亡の恐れがあるか、罪証隠滅の恐れがあるか、厳密にチェックしてほしい。
日弁連では、逃亡や証拠隠滅を防ぐため、住居の特定や事件関係者との接触禁止を裁判所が命令する方法を提案しているが、日本の刑事司法の改革は急務である。

為替デリバティブ

2012年08月10日 カテゴリー:商事

マスコミがオリンピック一辺倒になっている間も経済はグローバルに動いている。昨今の証券会社や銀行は、どぎついほど利益を追求し、インサイダーなどが問題になっている。

2009年末のギリシャ債務問題に始まったユーロ危機で、不良債権まみれの各銀行に救済の道筋をつけたのはドイツ銀行だと言われている。ドイツ銀行の前CEOアッカーマン氏退任後は、アンシュー・ジェイン氏がCEOになるとのことであるが、同氏はメリルリンチで腕を磨いたデリバティブのプロだそうだ。ギャンブラーの言いなりになるとドイツがヨーロッパで信頼を失うのではないかという声もある。

デリバティブ自体、庶民である私にはピンとこない。
先頃、南山大学のデリバティブ取引の解約による損失額が約160億円に上ることが報道されていた。藤田衛生保健大学では、約120億円の損失だった。テレビ局でも数十億のデリバティブ損失を出しているところもある。

昨今、中小企業は為替デリバティブによる損害に頭を抱えている。
A社は、2005年から2007年の間に大手MTU銀行に勧められて5口の為替デリバティブ契約を締結させられた。2007年7月に契約させられたギャップリアノックアウトクーポンスワップという商品は、「3ヶ月毎に106円20銭より円安の際は106円20銭で15万ドルを購入。106円20銭より円高の際は116円20銭で30万ドル購入。また2010年10月の前回受け払い日の5営業日前以降に117円40銭よりも円安となれば、30万ドルのドル買いの義務が消滅する」というものである。
当時、1ドル120円ぐらいであった。副支店長は、「円安が続くからお得ですよ」と言って勧め、最後には土下座までして勧めた。初めて銀行からの接待を受け、支店長と一緒にゴルフへ出かけた。しかし、現在となってみれば、1ドル78円ぐらいなので、この商品だけでも、あと5年買い続けなければいけないので、78円ぐらいで推移すれば、約2億3000万円の損失が出てしまう。他の4口の商品も損失の垂れ流しである。
B社は、もっと損失が大きく、今のままのドル円レートで10億以上の損失になる。
両社とも本業は黒字で頑張っているが、この為替デリバティブに頭を抱えているのである。

金融庁が銀行に対応策をとるよう求めたので、為替デリバティブ取引をめぐる紛争を解決するために全銀協やFINMAC(全国証券業協会)のあっせんを広報している。

私は、A社と共にMTU銀行に赴いて、「優越的地位に基づいて勧めたのではないか。原則解約できないが、銀行が同意すれば解約でき、銀行が提示する解約清算金を支払わなければならないというのはあまりに理不尽な条項ではないか。解約清算金の計算方法を明確にしてほしい。A社に必要なドル量を超えてデリバティブ取引を勧めたという認識はあるか」等を尋ねたが、本店から来た銀行員は、「優越的地位に基づいているとは思っていない。解約清算金の計算方法は開示できない。」等というのみであった。

B社は、FINMACに、あっせん申立てをした。 あっせん委員は名古屋の女性弁護士であった。あっせん委員は、「最近、解決の基準ができた。従前、申立て以降のものについて銀行の負担割合を決め、あっせん案を出していたが、デリバティブ取引をした時からのもの全てについて、あっせん案を出すことになった。負担するのは1割から3割の範囲で、御社はドルの実需がデリバティブ取引によるドル量以上にあるので、本来、銀行の負担割合はゼロとなってもおかしくないが、最後の1口は銀行側にもお手つきがあると思われるので1割というあっせん案を出します」と述べ、取り付く島がなかった。

ドルの実需があるかどうかが1番のメルクマールになっており、どのように勧誘されたかということは全く考慮されなかった。よほど優越的地位の濫用といえる場合でなければ銀行の負担割合が3割というあっせん案は出ないという口ぶりであった。

どの中小企業も取引のはじめの頃は1ドル120円前後であったため、呼び水のように少しは利益を得ている。したがって、はじめからの全ての損失についてのあっせん案であると言われても、あまり有難みがないのであった。そのため、B社はあっせん案をのむわけにはいかなかった。

バクチみたいな為替デリバティブ商品を売りつけられた中小企業の怒りはなかなか収まらない。あっせん案を画一的に定めず、最高10割でも銀行が負担するような血が通ったあっせんに変えてほしい。あっせんが機能しないのでは、あとは訴訟しかないが、訴訟は中小企業にとって負担が大きいし、裁判官にデリバティブ取引を理解してもらうためには弁護士の汗も必要になる。

人はなぜ騙されコントロールされてしまうのか

2012年06月05日 カテゴリー:民事

本屋へ行くのは楽しみだ。5月にはオリンパスもの3冊「解任」「サムライと愚か者暗闘オリンパス事件」「オリンパスの闇と闘い続けて」が並んで平積みされていた。 その後、本屋へ行くと、木嶋佳苗被告人に関する本が4、5冊と、紀藤正樹弁護士の「マインド・コントロール」が平積みされていた。それらの何冊かを買い、「マインド・コントロール」を読んでいたところに、オウム真理教の菊池直子逮捕というニュースが飛び込んできた。

オウム事件が報道されていた当時、「息子がオウムに入信して、戻ってこないが何とか連れ戻す方法がないでしょうか」という相談を受けた。1人は国立K大1年生で兄弟の中で一番頭が良く、素直な良い子だった(仮に、Kと呼ぶ)。父親は名前の知れた会社社長。もう1人はA大1年生(仮に、Aと呼ぶ)。父親はマスコミ勤務で資産家であった。
頭の良い資産家の息子を狙ったのかとさえ思ったのは、オウムが、入信した人に遺言を書かせているという説もあったからである。

麻原が逮捕された。サリンを使用した事件の頃、ロシアへ行かされていて重罪を免れたが、有印私文書偽造・同行使罪で上祐が逮捕された後、Kは上祐の養子になってしまったことを、両親は公安警察から知らされた。身柄拘束された上祐のメッセンジャー役を務めていたと思われる。
Kは、その後、逮捕され、逮捕勾留期限の23日後に処分保留のまま釈放され、名古屋の実家へ戻ってきた。両親は大喜びした。「うちの息子もようやく目が覚めました。K大にもう1回行くと言ってくれました。」と報告してきた。
しかし、数ヵ月後、Kは、「K市に行ってくる」と言って親からお金をもらって家を出たが、それっきり戻ってこなかった。後で、手紙がきて、「バイバイ」と書いてあったとのことである。そして、今だに戻っていない。

Aが、上九一色村に居ることを公安から聞いた両親は会いに行き、姿を見かけることができたが、話をすることはできなかった。彼は逮捕はされていない。2度ほど、祖母に会いたいという連絡があり、お金をせびっていったが、結局、戻っては来ていない。やはり、真面目でいい子であった。

紀藤弁護士の本に書いてあるとおり、逮捕された後、戻ってきたKにはカウンセリングができる人をつけるべきであったと思われるが、名古屋地区でオウム信者をカウンセリングして、自らの信じることが誤っていることを諭してくれるカウンセラーが見つからなかった。
統一教会の場合は、キリスト教の牧師さんでカウンセラーとして有効な力を持っている人が名古屋地区におられた。オウムはキリスト教でも仏教でもなく、麻原教であったため、連れ戻す有効な手段がなかなかなかったのである。
また、教団に戻った子どもに親側からコンタクトを取るのも不可能に近かった。

当時、オウム真理教と知らず、マンションの2室を個人名の人に賃貸したところ、オウム真理教の信者達が10数人入り込み、不気味だから退去させたいという大家の代理人にもなった。任意に退去してくれないので、明渡しの裁判をせざるを得なかった。勝訴判決を得て、執行官と鍵屋と共に現場へ行った。ドアを開けて中を覗くと、10人くらいの人がヘッドギアというものを頭につけて呪文のように「修行するぞ、修行するぞ」と言いながら体を動かしていた。責任者だという男性がきたので、執行官に話をしてもらい、明渡しの約束をとり付けることができ、何とか平穏に明渡してもらえたこともある。
菊池直子被疑者は17年間の逃亡生活に疲れ果てたように痩せていたが、たぶん、パシリとスポーツ広告塔に使われたのであろう。

それにしても、なぜ人はこうもやすやすと騙されたりマインドコントロールされたりするのだろうか。統一教会から二束三文の大理石の壷を高く買わされた女性や、入信して絵画やネクタイを売っていた若者、オウム真理教に身も心も捧げて殺人まで犯してしまった優秀な人達などだけではない。占い師の言うがままになってしまったと思われるオセロの中島さんだけではない。木嶋佳苗被告人に騙された男性達だけではない。どんなに強い人でも、病気になったり、心が弱った時に、ふと何かにすがりたいと思ってしまうのだろう。

NHKスペシャル「オウム真理教」で、麻原の巧みなマインドコントロール術の一部を説明していた。騙したりコントロールしようとする側の術を知り、かつ、それを見破り打ち勝てる力をどうしたら身につけることができるのだろうか。

AIJ問題

2012年04月03日 カテゴリー:民事

AIJが厚生年金基金から預かったお金を消失させていた事件は、年金制度そのものの変更を迫るほど大きな波紋を呼んでいる。
2012年4月3日、参院財政金融委員会でAIJ投資顧問の浅川和彦社長らの参考人質疑が行なわれた。 浅川社長は「運用に失敗した事実の責任はあるが、だましたという認識は一切ない」と繰り返した。 AIJに45億円を運用委託した栃木県建設業厚生年金基金の渡辺理事長は、「運用実績を改ざんし、契約通り運用していなかったのだから詐欺以外のなにものでもない。当初から騙されていた」と批判した。年金基金への営業を担当したITM証券の西村社長は、「浅川社長にだます意思があったかどうかはわからないが、外形上はだましたように見える。運用実績に関する監査報告書について疑わなかったといえば嘘になる」等と述べたという。(4月3日付日経夕刊、中日夕刊)

なぜ参考人招致なのか。手ぬるい。
詐欺罪で逮捕してほしいと思っている厚生年金基金は多いのではないだろうか。

被害金額は数十億円と規模は異なるが、AIJの社長の言い分は、詐欺で実刑となった大和証券の社員によく似ているなと感じた。
大和証券に19年勤めていたベテラン女性社員Yが、元々の顧客等に対し、「ペイオフは、証券会社には無関係だから銀行に預けるより証券会社に預ける方が安心ですよ。年に1回、特定の顧客にのみあっせんする非公開商品があり、必ず儲かりますから○○円でいいから預からせて下さい。2ヶ月で11%の利息をつけますから。」「大和証券の株が安く手に入ります。ソニーの株が社員用で安く手に入ります。」等と言って勧誘し、数百万とか1000万とかの単位で何十人もからお金を預かった。1億円近いお金を預けた人もいた。後の方にだまされた人は1円も返してもらっていなかった。
発覚したのは2002年夏。民事訴訟が終わったのは2010年だった。被害者のうち10名の方から依頼を受け、中村警察に詐欺罪で告訴しに行った。告訴人をしぼると、告訴状を受理してくれた。
刑事が、数ヶ月かけて膨大な資料をもとにお金の動きを図式化して調べたところ、バブルの時は、株式を買うなどして運用していたが、バブルが崩壊すると、顧客から新たに預かったお金を他の顧客に返還するものにまわし、自転車操業していたことが判明し、検察官は詐欺罪で起訴してくれた。

刑事法廷で、Yは「だまし取ったつもりはありません。」「うそをついてお金を預かりました。でも約束どおり、本当に最後まで返そうと思っておりました。」と供述した。
AIJの社長と同じだ。

判決は、一審が、初犯でも、実刑6年、二審で5年だった。

名古屋高裁刑事部は、次のような判示をしている。
「外務員としての成績を上げるため、会社からは禁止されていたのに、一定の利益を保証する利益保証の約束や、預かった金員を外務員が自由に運用する一任取引の約束をした上で、金員を預かって株取引を行なってきたところ、いわゆるバブル景気の崩壊に伴う株価の下落によって、顧客から預かった金員が大幅に減少したのに、顧客からは利益金等の払い戻しを請求されるという状況となった。そこで被告人は、これらの顧客に対する払戻金に充てるため、他の顧客から金をだまし取ることを企て、原判示のとおり、架空の金融商品の買付代金等と称して被害者らから金員をだまし取ったというものである。」
(2004年8月23日名古屋高裁刑事第1部判決)

民事事件で、大和証券は、「10%以上もの運用益があるはずがない。原告らは、Yが違法なことをしていたことを知っていたはずだ。悪意であるから大和証券に賠償義務はない。少なくとも原告らには重過失がある。」と主張し、原告らの方があたかもYの犯罪に加担したかのように主張した。
これは、被害にあった厚生年金基金に対しても向けられる主張だと思われる。
しかし、だました方が一番悪いのは明らかだ。Yの監督をきちんとしなかった大和証券が悪いのは明らかだと言いたい。

大和証券では、1991年、会社ぐるみで損失補填をしていた事実が発覚している。社員には重いノルマを課していた。1998年1月にも2000年9月にも同種事件が発覚していたが、顧客に特別の注意喚起をしていなかった。名古屋地裁は、和解を勧め、被害者の過失は認めざるを得なかったが、大和証券から相当の和解金が支払われた。

Yに対しては判決をもらった。Yは、賠償責任を免れようと、事故発覚直後、自己破産を申し立てたが、免責は当然のことながら許可されなかった。約5年間、刑務所で働いたお金のうち10万円を送ってきただけであった。

国から預かっている代行部分にまで赤字が食い込む「代行割れ」を起こしている基金も増え、その数は200基金を超えるといわれている。国からの代行部分を返上して年金基金を解散するには赤字を企業が補填しなければならず、年金倒産になりかねない。

では、国が管理している厚生年金は、どうなのだろうか。NHKをみていると、何兆円も減少しているとのこと。だいぶん前には社会保険庁が流用していたこともありましたよね。高利回りで運用するために、新興国への投資をしているところもあるという。為替リスクや政情リスクもある。

日本のバブル崩壊、リーマンショック、ギリシャなどの危機。もうハイリターンは望まないで、未来の計画を立てるしかないのではないか。(年金積立金を支払う人は減少せず、高い運用益が見込まれる)という誤った予測のもとにつくられた制度は根本的に変えざるを得ないだろう。しかし、そうすると、生活保護は増加すると思われる。

内部通報制度を生かしている企業はあるのか?

2012年01月27日 カテゴリー:企業問題, 商事

内部通報制度とは、企業において、法令違反や不正行為の発生またはその恐れのある状況を知った内部の者が、その状況に適切に対応できる窓口に通報することができる制度のことである。その窓口が企業外の第三者の弁護士であっても、企業の経営陣にフィードバックして不正行為を正すなどするという制度である。企業によって「ヘルプライン」「コンプライアンス相談窓口」などという呼び名が付けられている。江戸時代の目安箱に似た制度といえようか。

しかし、内部通報制度を利用して、企業内で正すことができたケースはないのではないか。
あるのであればぜひ教えていただきたい。
内部通報したことによって、企業内で自浄作用が働くのであれば、外部に知られることなく企業の信用も損なわないため、企業にとっては大きな利益となり、重要な制度であるはずだ。

オリンパスのことは連日のように報道されている。
上場を維持すると東京証券取引所が決めた後、オリンパスと提携したい大企業が3社も名乗りをあげている。なんといっても、オリンパスグループは医療関連事業を中心とし、内視鏡市場で75%のシェアをもつトップメーカーである。医療事業は、これからの日本産業の柱の一つだ。
テレビドラマ「医龍」(天才心臓外科医 坂口憲二、憎まれ役 岸部一徳)では、医療を産業と考える憎まれ役がロシアや中国から富裕層を招いて手術を受けさせ、大学病院を企業として発展させようとしている。また、外科を恨む内視鏡の達人医師(遠藤憲一)の登場により、心臓外科が存亡の危機に陥るというストーリーが「医龍3」で展開され、内視鏡の素晴らしさがクローズアップされている。ドラマ「最上の命医」でも内視鏡は活躍している。
そのシェアを75%も持っているのがオリンパスだ。

しかし、オリンパスは自浄作用が全く働かなかった。
外国人の元代表取締役ウッドフォード氏は、同社が行なった一連の企業買収は正当ではないことに気付き、大手監査法人に連絡を取って調査してもらい、取締役会で示した。ところが、取締役会のとった対応は、不正行為を正すどころか同氏を解任した。そのため、イギリスへ帰国した同氏は、フィナンシャルタイムズ紙や重大不正監視局に自分の言い分を語り、オリンパスの不正行為がグローバルに明らかになったのである。

同社の飛ばしによる粉飾決算という大きな問題が明らかになる前に、従業員が上司の不正行為を内部通報した件が裁判で争われ、地裁と高裁が全く結論の異なる判決をしたのは2010年と2011年のことである。
東京地裁は、取引先からの引き抜きについて内部通報をした従業員に対する配転命令権の行使について、不当な動機目的が認められず、権利濫用に当たらないと判示した。
しかし、東京高裁は、取引先の従業員の引き抜き等を会社が設置したコンプライアンス室に通報した従業員を三度にわたり配置転換したことについて、最初の配転命令が内部通報をしたことを動機とする不当なものであり、続く二度の配転命令がその延長であるとし、上司の不法行為責任、会社の使用者責任を肯定した。東京高裁は、内部通報した従業員が承諾していないにもかかわらず、その人の氏名や通報内容を開示し、それにより上司が配転命令をしたという事実を認定した。一審判決の後、二度の配転命令をなし、これまでのキャリアが生かせない仕事に追いやったのである。

オリンパスは上告しているとのことであるが、飛ばしが明らかになった今、同社が逆転勝訴することはないと思う。同社は、コンプライアンス・ヘルプラインという内部通報窓口を2005年に開設しているが、原則として所属部署や氏名をあきらかにしなければならず、第三者窓口もないお粗末なものであった。

過去の企業の不正が明らかになった事案でも内部通報制度は機能していない。
例えば、三菱自動車のリコール隠しは30年も続いた。それが暴かれたのは、内部の者が外部の監督官庁に電話で通報したことによる。朝日新聞(2002年10月29日)によると、
「名乗らない男性から運輸省自動車交通局に1本の電話があった。2000年6月12日午後2時。『三菱自動車工業は、客からのクレーム情報を運輸省に見せるものと見せないものに二重処理している』男性は、続けて二重処理を発見する方法まで説明した。『見せられない書類は男女のロッカールームにある』『本社と岡崎工場(愛知県)、ディーラーに同時に立入検査し、情報を照合すれば判明する』…」
男性に教えられたとおり、事前予告もなく、同時に立入検査をして、ようやくリコール隠しが暴かれたのである。

しかし、その後もグループの三菱ふそうはリコール隠しをした。
そして、2002年1月トレーラーのタイヤ(重さ140kg)が空を飛び母子を直撃し、母は死亡、子2人はけがをした。また、同年10月、三菱自動車製大型車のクラッチ系統部品の欠陥によりブレーキが効かず、運転手は、他者を巻き込み大惨事を引き起こすことを避けて、自ら道路脇にあった地下道入口の構造物に衝突させ、死亡したとみられている。おりしも、2012年2月11日の朝刊で「三菱自動車元部長ら有罪確定 ハブ破損母子死傷 最高裁が2月8日上告棄却」と報道された。三菱ふそう元会長らについては、2010年3月9日有罪が確定し、法人としての三菱自動車は、上告を行なわず、2008年7月頃、罰金20万円の有罪が確定している。

近年、企業の不正が連日のように報道されているが、マスコミや監督官庁という外部への告発によって明らかになっていることが多いのではないのだろうか。 内部通報制度は、企業の内部統制システムの中で重要な制度であるとか、内部通報制度がきちんと整備されていればもっと早く不正が発覚したはずだという意見がある。しかし、どのように内部通報制度をつくっても、内部で正すことができるのかという疑問を持たざるを得ない現状がある。残念です。